「メッセージ」


原作はテッド・チャンあなたの人生の物語」。
叙述トリックのある映画なので、見ようかな?と思っている人は映画を見てから感想を読むことをおすすめします。

時系列、という言葉があるように、人間は時間は過去から未来へ流れていくと思っているし、それは言ってみれば川の流れのように過ぎていくもの(ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず…)、だと思っている。いやそれを「意識」してすらいないかもしれない。

映画はある女性の幸福な日々を映しだすことから始まる。愛情をもって育てた一人娘との蜜月。思春期。そして彼女を襲う病。喪われてしまう何よりも愛しいものの命…。そして、彼女は語りだす。自分が「時間」の概念を獲得した体験を。
映画のこのエピソードの配置から、最初に語られた彼女のエピソードを、時系列の、川の「上流」に置いたままこの映画を見始める観客が多いのではないでしょうか?

ある日突然、世界12か所に謎の物体が現れる。彼らは誰で(何で)どこから来たのか?なんのために来たのか?そのコンタクトを試みるために言語学者である彼女と、数学者の男性が呼ばれる。決まった時間だけ開かれる「ゲート」をくぐり、彼女らは「彼ら」の意図を探し当てるため、接触を試みる。

ヘプタポッドの描く「言語」、その見えない全体像、小石をひとつずつ積み上げていくような「コミュニケーション」にしびれをきらす者からのプレッシャー、反乱分子。そういったものをかいくぐりながらヘプタポッドとの「会話」を試みる彼女は、奇妙な映像を見るようになる。その映像は、時間を川の流れとして見ている観客には過去のフラッシュバックに見える。だが、だんだん、その映像が何を示しているかがわかるようになってくる。そしてそれが「なんなのか」を理解した瞬間の、脳がぐるっと反転するかのような感覚!これぞSFを見る(読む)醍醐味といっていいのではないでしょうか。

言語は人間の思考や世界観の構築に関与する、つまり「新しい言語」を手に入れた彼女は、時間を新しい概念で理解することができる。その概念の中では時間は川の流れではなく、今も、100年前も、3000年あとも、「そこ」にあるものなのだ。だから彼女は、この先に待っていることを知っていても、その道を選ぶことができる。自分にとっていくつもの得難い瞬間を自分のものにするために。

劇的な興奮と、脳をぎゅっぎゅっともまれるような体験を味わえる映画で、見終わった後ちょっと世界の色がかわってみえてくるような2時間でした。やー面白かった。