「七月大歌舞伎 昼の部」

  • 松竹座 1階12列8番

今月の松竹座は昼夜ともに舞踊と狂言の構成。昼の舞踊は「二人道成寺」で孝太郎さんと時蔵さんの組み合わせ。孝太郎さんの道成寺、たぶん初めて拝見しました。時蔵さん今月ほんと大車輪だなー。

さて、「夏祭浪花鑑」。勘三郎さんが亡くなってから「夏祭」見るの、思えば初めてでした。今まで、勘三郎さん以外では、吉右衛門さんと海老蔵さん、そして勘九郎さんの団七を拝見したことがあり、最近では海老蔵さんがおやりになる回数が多いような感じですね。とはいえ、私にとって「夏祭」の団七はやはり勘三郎さんのものとして深く刻まれているところがあります。でもねえ、もうこれはしょうがないと思う。あの扇町公園での平成中村座でこの演目を見ていなかったら、私は絶対こんな風に歌舞伎に足を運ぶようになっていない。私にとって夏祭はなんというか、もはや骨絡みで記憶された永遠の一本というようなものだからです。

染五郎さんはしかし、そういうファンの気持ちを知ってか知らずか…いや、ぜったい、それをわかってくださったうえで、今回の団七は中村屋のおじさんとお兄さんを思い出しながらやりたい、中村屋の夏祭はよかったよねと皆さんに思い出していただけるものにしたい、とか仰ってくれちゃうもんだから、私もお言葉に甘えて、存分に自分の愛した芝居を重ねながら見させていただいたという感じでした。

住吉鳥居前で、あの床屋から見違えるような男前(こういう場面に使う言葉ですよねー、男前って!)になって団七が出てくるところ、何回見てもワクワクしますね。また染五郎さんが本当に絵に描いたようなすっきり男前なもんだから!松也さんの徳兵衛、ちょっと声がかすれ気味だったのが奏功というか、やくざ者の雰囲気を醸し出していてよかったです。この2人で九郎兵衛内と屋根上も見たかったなーと思ったりしました。今回、お辰は時蔵さんがおやりになっていたんですが、今まで団七は違う型で見ていても、お辰は勘三郎さん、福助さん、勘九郎さん、七之助さんという面々でしか見たことなかったんですね。なので、実のところ時蔵さんのお辰がめちゃくちゃ新鮮でした!時蔵さんのお辰を見ると、なるほど中村屋の芝居は濃口だったんだなーなんてことを思ったり。いやそこが好きなんですけども。時蔵さんが薄いというわけじゃなく、さらっと見せて歯切れ良し、という感じ。改めて同じ芝居でもこう変わるか!という楽しみを味わわせてもらえました。

長町裏、いやその前の駕籠を追いかけて団七が飛び出していくところから、びっくりするほど勘三郎さんの姿を重ねながら見ていました。泥場で、殺した義平次に足をかけてぐっと泥に沈めていくときの顔や、あの鍔鳴りのする刀が手から離れず、肘を打ってようよう手から離す仕草や、近づいてくる高津宮の鉦の音や…。おやじどん、ゆるしてくだんせ、とあの沼に声をかけるようにしていたことを、ほんとフラッシュバックのように思い出したり。染五郎さんの団七が物足りなかったというわけではなくて、なんというか重ね絵のように見えるというか、違うんだけど、思い出す、思い出せる、そういう不思議な体験でした。

やっぱり、この芝居が好きだし、この芝居をやるときに太陽のように輝いていたひとのことを思い出すし、でもそれが悲しいわけじゃなくて、こうしてまた新しく受け継がれていくんだなということを実感したりしました。見ることができてよかったです。