「髑髏城の七人 season風」


Season風の開幕前に月のダブルキャストが発表になり、月のあとにseason極も発表になり、ほんと…こんなに髑髏城ばっかり食べてお腹こわさない?って感じになりつつありますが、いやもうここまできたら付き合いますよ最後まで、ってまだ月のチケット取れてないけどね!

さて、花鳥に続いて風です。ウリはなんといってもこの戯曲のもともとの趣向であった「捨之介=天魔王一人二役」の体制で演じられるという点でしょう。個人的にこの一人二役という制限を活かしているからこそこの脚本がすっごく好き、という部分があるので、この形で上演されるのはめちゃくちゃ楽しみでした。

うーん正直、どこからどう書けばいいのか迷うんですけど、まずこの一人二役っていう芝居の趣向をなんつーか活かしきれてないというのか、いやなしてこの展開を選択…?みたいなところがあって、活かしきれてないってもともときみらの作品なのに、なんでなん!という気持ちがおさえられず。

まず第一幕で天魔王の顔をまったく見せないという、これ絶対よくない。よくないです。二幕では仮面を取った天魔王のビジュアルが出てくるんだけど、おそらく過去の上演作品の中でももっとも信長に寄せてるんですよ。いや…だったら本能寺始まりをやればいいのにって思うわけです。「来い、秀吉。髑髏城で待っている」も勿論ない。で、なんでこれがダメかっていうと、仮面をかぶって出てくる一幕の「天魔王」の中を観客がまったく想像できないんですよ。1回でも顔を見せておけば、あとは観客は勝手にその中を見てくれるんです。一人二役だって設定知ってて「あーこの中には捨と同じ顔があるテイなのね〜」と思っているのと、さっき見た「天魔王」を鎧の中に思い描くのとでは全然違うんだと声を大にして言いたい。あと天魔王が出てきたときにあの鎧じゃぜんぜん「カッコイー!」て思えない。もっとビジュアルこだわってよ!この鎧でリアル追及してどうするんだよ!

二幕になると俄然「同じ顔」ってことが活きた展開が続くわけですが(やっぱり沙霧が蘭を追いかけて髑髏城に乗り込んできて、捨がいる…!って驚愕するという展開のスムーズさときたら、こうでなくちゃ感ハンパない)、終盤に自分ひとり逃げ出そうと画策する天魔王が捨之介の姿を借りるところまではいいんだけど、なぜ、そのあと牢にいる捨之介にわざわざ鎧と仮面をつけさせて、しかも兵庫たちは勘違いするけど沙霧だけはそれを見抜く…みたいな展開を入れたんや…!もう、ほんと、すんでのところで「おい!」って声に出そうでした。要らない。それは要らない。それは天魔王と捨之介を別人がやるときに「仮面で顔がわからない」ようにわざわざ書き足した話じゃないですか。その「取り違える」面白さは、そして沙霧だけが真の天魔王を見抜くという展開はその前にもう済ませてるんだよ。この展開を差し挟むことで、せっかく天魔王が捨の姿になって二役がシームレスに見せられる(そしてそれを演じる役者の力量を堪能できる)のに、その面白さまで奪われるし、捨が蘭の最期を見ないことになってしまうし(何を虚空に向かって「今度は迷わず行けよ」だよーあれは蘭の最期を見た瞬間に何があったかを悟っての台詞で、しかもそれがあっての捨確変じゃないですかー捨之介もうおこだよ!!!なポイントオブノーリターンじゃないですかー)挙句仮面を自分の剣で叩き割るのもほんと…いやもう言うまい(十分言ってますけどね)。「お前までもがそう思うのならばこの姿に身をやつした甲斐がある」ってその前のシーンで天魔王が言いますけど、芝居の展開的には全然身をやつした甲斐なかったねっていう。

なんというか、あんなにも素晴らしい骨格を持った脚本で、だからこそ再演を重ねていろんな肉付けがされて、もちろんそのたびにその時ならではの旨味があったと思うんだけど、ここまで回を重ねてもはや肉や脂がつきすぎて元の味がわからなくなってしまっているのでは、という感じがどうしてもしました。一人二役の構図に戻したからこそそれをひしひしと感じたのかもしれません。捨之介が女を斬ることにためらう、っていう設定も、もっと自然に見せられたんじゃないかって思うし(急に泣くの唐突すぎて…)キャラクターも、たとえば今回贋鉄斎はじゅんさんが演じていらっしゃって、もちろん面白いし、楽しいし、じゅんさんに求められる役割を十二分に果たしていらっしゃるけど、でも贋鉄斎ってあんなキャラクターなのかなあというのもやっぱり思ってしまうわけですよ。前回よりもトゥーマッチに、という趣向が入りすぎてないか?っていう。まあそれは蘭兵衛にしろ極楽にしろ同じではあるんですけど、もうちょっと劇作全体をシンプルな方向に見直すということもやっていいのでは、と思ってしまいました。

松山ケンイチさんが新感線出演2回目にしてこの大役、いやホントこの一人二役を引き受けたその心意気やよし(だって彼の前にこの一人二役をやってるのは古田さんと染五郎さんという超弩級のみ)。なにがすごいって、めちゃめちゃ身体がキレるってことにまずびっくりしました。あんなに足技回転技炸裂させて、割台詞でもぜんぜん息が乱れないのすごいよ!これは多分ですけど、捨のキャラクターとして、天魔王という相対する存在を踏まえた役作りにしてるんじゃないかなって気がしました。なので二役がそろって出てくる二幕のほうが俄然芝居が輝いていたし、ぐいぐい波にのっていく感じがあってよかったです。贋鉄斎とのシーンはたぶんじゅんさんとのリズムが合ってくればもっといろいろ拾えそう。じゅんさんも、多分後半にもっと爆発してくるだろうなーというか、これはほんとこっちの勝手な妄想かもしれないけど、まだ若干キャラに迷いがあるような。あんなに吹っ切れてんのに!?という気もするけど、いやでもホントに爆発したときのじゅんさん、あんなものじゃないもの!

あとは何といっても生瀬さんですかね。ほんと…はー、もう、うなるほどうまい。出のシーンから一貫して抜きんでた芝居の安定感、余裕、狸穴は基本的にうまい人しかやらないって感じの布陣がここんとこ続いてますけど、その「実は」なぶっ返り具合も含めて文字通りずっぱまりでした。ほんとに生瀬さんが風に出てくれてよかった〜〜新感線初登場とは思えない〜〜もっと!もっと出て!!山内圭哉さんの兵庫、キャラの造形として結構変えてくるのかな?と思ったんですけど、思いのほか一本気男気キャラで通してきていて、しかもそれがよくお似合いだった!「てめえが雑魚だと思ってる連中の力みせてやろうじゃねえか」っていう、私がいちばん好きな台詞(これ何回でも言います)を、ぐっと抑えたトーンで言っていたのもよかったなー。

極楽太夫田中麗奈さん、ワカ路線というか、花鳥も同じ路線のキャラクターでしたけど、田中麗奈さんならそこまで姉御肌を押し出さないキャラのほうがはまったんじゃないかなあという印象。綺麗だけれど、有無を言わせぬ、近寄りがたい感じというよりは、舞台であのトーンの台詞だと親しみやすさが先に立っちゃう感じ。無界の女衆が逆に極楽をよしよしぎゅっぎゅしてあげるような構図の方が、終盤の展開でもっと観客の涙腺にヒットしたのでは?向井理さんの蘭兵衛、個人的に殺陣はね、あんなもの工夫次第というか、全然殺陣が出来ないのに凄腕の殺し屋をやってた堺さんみたいな例もあるし(とばっちりゴメンね)、おかげで鉄砲ぐいぐい使ってくるキャラに戻ったのはよかったと思う。ただなんつーか…とあるシーンで猛烈に「ねえ、いま、それホントに思って言ってる!?」と言いたくなったところがあって、いや思ってるんだろうけど、それが伝わらない。一幕は特に淡々とした中で見せなきゃいけない芝居が多いってのもあるけど、それにしても薄い。二幕の蘭兵衛はぐいぐい押してくるパートも多いので、そっちの方はまだよかったかなーと思うけど、1列目で見て思うんだから、もうちょっとどうやったら芝居が届くかってことに注力してほしいと思ってしまいましたよ。そう見せられていないのは演出家の責任も勿論あるけど。

どうでもいい話なんですが、前回鳥の2回目見たときほんっとにあの円形の客席のほぼど真ん中で、ど真ん中ってことはアレ、どれだけ客席が動いても自分は回らないんですよね。円の中心だから。でもって今回最前列だったんですけど、いやーさすがに最前列はぐいんぐいーーーーんとよく回る。私この手のやつは全然平気なのでわー回ってる、って楽しかったですが、三半規管弱めのひとは席位置によっては要注意かもだ。でもって最前列は、スクリーンと座席の動きの相乗効果はさすがに堪能できないですね。

風は公演期間が他のシーズンと比較すると短めというのもあって、この1回きりの予定なんですが、千穐楽までにまたどんどん芝居も成長していくだろうし、そうなっていくことを心から願います。ワアーーー後半チケットとればよかったーーーと私を悔しがらせる芝居に育ちますように!