「吉例顔見世興行 夜の部」

  • 京都ロームシアター 1階1列14番

南座改修中につき、今年の顔見世はロームシアターで!岡崎ほんと雰囲気あって好きなんだけど人が多い、よね…(当たり前)。
「良弁杉由来」。初見です。鴈治郎さんの福々しい大僧正とその母を演じる藤十郎さん。歌舞伎のお得意のパターン「実は」母子という展開なんですが、まあもちろん観ている側はわかってみているわけで、昔は苦手だったこのパターンもすっかりニコニコ楽しめるようになりました。東大寺二月堂に本当にあるんですね、良弁杉。というか、その実在の木の逸話がこうして作品となって残っているというべきか。一度見に行ってみたいです。

「俄獅子」。三兄弟そろい踏み!華やかな一幕でした。なんつっても時蔵さんが無双でした。ご兄弟をこうして歌舞伎の舞台でそろって見るのは初めてでしたが、歌之助さんはまだ青年と少年の間みたいな雰囲気もあり、かとおもえばお兄ちゃんはますます風格が出てきてるし、これからどういう芝居を見せていってくれるのか楽しみです。

「人情噺文七元結」。芝翫さんが左官長兵衛、扇雀さんが女房お兼、手代文七を七之助さん。いやー、しみじみよかったです。終わった後、うしろに座っていたご夫婦がやっぱり年末はね、こういうのがいいね…と話しておられたのが聞こえてわかるう〜〜〜とひとり心の中で頷きまくった。冒頭の長兵衛とお兼のやりとりからふたりの息がぴったりで面白いし、文七と長兵衛のやりとりでの逡巡、文七のちょっと抜けたような人の好さ、長兵衛の「死ぬんじゃねえぞ!」の捨て台詞、終幕の大団円と、みっちりとつまったいい芝居でした。あの「死ぬんじゃねえぞ」はやっぱりぐっと胸が熱くなるものがありますし、そのあとの長兵衛宅でもあくまで陽な雰囲気のなかでお兼と丁々発止の言い争いがあって(ここの扇雀さんが絶品すぎ)、しかも最後の最後に鳶頭で仁左衛門さまが出てきて男前にころされるっていう隙のなさ。劇中で口上もありなんとも和やかな幕切れ。

でもって、目の前で繰り広げられる芝居を堪能しながら、自分でもよくそのきっかけがわからないんだけど、突然勘三郎さんの長兵衛が鮮やかによみがえってきて、芝翫さんとくらべるというのではなくて、なんだかふたりが重なって見えるような…ゲラゲラ笑いながらボロボロ泣くっていう、なんだか自分でも不思議な感じでした。12月の南座だからなのか、あの「死ぬんじゃねえぞ!」の台詞なのか…どんなところにも思い出は潜んでいるけれど、悲しく思い出すのではなく、思い出の先の未来と共に懐かしむことができたような気がします。

大江山酒呑童子」。本日の(私の)メイン!顔見世の昼夜どっちを見るか、と考えたときに昼の部の方が勘九郎さんが出る演目が多い、でも酒呑童子は…み、みのがせねぇ〜〜〜!!!ということで行ってきたのよ。大正解。大正解の大好物。出から幕が閉まるまで好きなところしかない。しかもお席が最前の花横だったので、あの花道で最初童子桔梗の花?*1を持って舞うところ、いやもうこれあたし完全ロックオンされてるやん!みたいな角度で拝んだのでほんとあそこで取って喰われても本望みたいなレベルだった。お声がね〜、ここんとこずーっといまいち本調子じゃないというか、すぱーんと響く声が出なくて(後から調子が出てくるんだけど)それはずっと気になっています。とはいえ、それを補ってあまりある、あの、あの、踊りの素晴らしさ…!!!!もうこれを2時間ぐらいやってくれていいんだよ(お前がよくても勘九郎さんはよくないよ!)、ほんとにこの人の鳴らす所作板の音を着信音とかにできない?ダメ?ぱっつん前髪の下できらりと覗く人ならぬものの目、最高。酒を催促するかわいい素振りもよいが、飲む一瞬前の口を三角にしてニヤァ…と笑う顔、最高。葛桶に腰かけて踊る足さばきの見事さ、最高。これ、うしろで小三郎さんが葛桶が動かないようぐっと抑えてるんだよね。そういうのが見られるのも前方席の楽しさ…。酔った童子の舞になるところ、一瞬鬼の本性が顔にふわっと浮かんで、それをさっと隠して踊るんだけど、そのときの裏の顔がまたもう絶品なのよ奥さん。絶品!なにこれ!マジで天を仰いで神に感謝案件だよ。花道で頼光と向かい合うところも最高だし、あの狭く短い花道であの跳躍!惚れるしかない。惚れるしかない。最後袴の裾を片方一瞬でさっと足に巻き付けて(踏まないようにだね)舞うところも、なんかもうすべてがありがたい…て拝みたくなるほど好きな瞬間の連続でした。最後の仏倒れも素晴らしかったんじゃない!?今回頼光が七之助さんで、凛としながらも「この大将、守ってあげたい」感があったのもよかった。大河ドラマの撮影がスタートすると舞台のほうはしばらくお休み…でもちろんさびしいに決まってるけど、その間この飴でも舐めとけって言われたんじゃないかって勝手に思い込んじゃうほど私にとっての御馳走演目でした。延々舐めてられる。味なくなるまでしがんでいられる。こういう勘九郎さんが好きでたまんないんですよ。人であるような、ないようなところを見せる、それを信じさせる抜群の身体能力と踊りのうまさ。はー!もう!好き!(告白)いやほんと、年の瀬の顔見世、これ以上ないほど堪能しました!

*1:ツイッターで「鬼あざみ」ですよ〜と教えていただきました!ありがとうございます!