「ブラックパンサー」

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ライアン・クーグラー監督!2/16全米公開、3/1日本公開でわずか2週間の差でまだ恵まれている方!ですが、いやー待ちかねた!本国ではまさに他を圧する圧倒的な興行収入を叩きだし、試写の感想も上々でしたので本当に楽しみにしていました。

シビルウォーで正式に顔見せとなったワカンダ王国とブラックパンサー。物語は先王ティ・チャカの死後、王に即位するティ・チャラの物語に、今まで鎖国状態となりヴィブラニウムという貴重な資源を守ってきたワカンダに迫りくる外圧との戦いが描かれるのですが、資源を占有し他国との交流を絶つことで自国の平和を維持するという考えと、それとも価値をシェアし国の門戸を開くことで全体がよりよい社会になることを目指すのかという、非常に今日的な思想の展開があり、今まさにどこに国でも現実に直面する課題にスーパーヒーローも向き合うことを正面から描いていて、かつひとつの回答を出させていることがすごいなと思いました。問題の提示だけするのはわりと容易いかもしれないですけど、その中で決断までさせている、しかもその決断に至る描き方が非常にうまい!

今回のヴィランでもあるエリック・キルモンガーは幼い時に親を殺され、軍で身を立て、自力で高等教育を習得し…と、ここだけ読んだらこれ完全に主役(ヒーロー)のスペックですよねって要素てんこ盛りのキャラなんですけど、その彼が自分(と父)を見捨てたワカンダに、そして現在進行形で世界の悲劇を見捨て続けている(と彼は思っている)ワカンダに乗り込んできて、「正当な手続き」を経て王となるという、この展開がしびれますよね。彼はワカンダにおいて簒奪者じゃないんですよ(むしろ簒奪された側)。だからこそかつての仲間がティ・チャラ陣営とそうでないものに別れるという私的にたまらん展開になるわけでね!

とはいえ、この展開があることであの「王に選ばれる儀式」をそっくり2回繰り返さなきゃいけないというのはアクションの組み立て的にはちょっと流れが停滞した感は否めず。かといって最初のバトルを不戦勝にしてしまうと、そのあとのバトルで負けるティ・チャラ(彼は自らの正当性をこの時見失っているからこそ負けるのですが)の王としての適性が見えにくくなるし、エムバクのキャラも立たなくなってしまうしでこれはいかんともしがたい選択ではあるよなと。

アクション的に楽しかったのはやはり韓国・釜山でのクロウとのチェイスですかね。あそこは音楽もめちゃくちゃよかった~~~でもって何がってオコエが最高ですよね。いやもうあの真っ赤なドレスでこんなに絵になるアクションありますかって場面の連打!もう、惚れるしかない!ヴィブラニウムの車に乗って「銃とか野蛮ね」って吐き捨てるとこしびれました。個人的に今回の一押しですよオコエ…。ティ・チャラを敬愛していても、「王の親衛隊」としてキルモンガーにつかざるを得ない、あの苦渋の選択!最高か!

オコエもかっこいいしナキアもかっこいいし(陛下が一回ナキアにフラれてるってのもうまい設定)、シュリちゃんはいわずもがなのキュートさかつ万能キャラだしで女性陣がほんとみんなめちゃくちゃよかったです。その女性陣に囲まれてるティ・チャラ陛下のおっとりした感じもすごくよかった。なんて愛されキャラなんだよ陛下~!

能力を引き出すハーブを飲んだあと、ティチャラもキルモンガーもそれぞれの「origin」と対面するんだけど、キルモンガーが帰っていくところがあのオークランドのアパートの一室で、憧れて憧れて何度も読んだであろう絵本と、わたしがまちがっていたといって涙する父と再会するっていうのがたまらなかったです。そしてティチャラは最初の儀式では父の偉大さを称えるのに、二度目の儀式では父の選択の過ちを質すという…ふつう、こういう「この世にすでにないものとの対面」って最後に和解がきそうなのに、その順番が逆になっているのもすごい展開だなと思いました。

今回ほぼすべてのキャストが黒人俳優で構成されていて、クロウをやったアンディ・サーキスと、ロス捜査官をやったマーティン・フリーマンが例外、という感じでしたが、マーティンの振り回されながらも最後やるときゃやるキャラもよかったし、クロウがまためっちゃいやな役で、アンディ・サーキスさすがやな…!と思いました。

このブラックパンサーを製作するにあたって、マーベルは相当に強い意志をもってことにあたったんだろうなということが、製作が発表された当初からひしひしと感じられていました。ライアン・クーグラー監督の起用(「クリード」は本当に最高なのでみんな見てね)も、チャドウィック・ボウズマンとマイケル・B・ジョーダンふたりの起用も、前段にあたるワカンダのストーリーを「シビルウォー」のきっかけとなるエピソードにしたのも、すべての美術、衣装、映画をとりまくあらゆるものに妥協しない、これだと信じられるものだけで作り上げる、そういう意思の強さがこの映画には結晶となっている気がします。映画はもちろんビジネスだから、当然ながら「どれだけ客がはいるか」というのは大きな問題です。ただ単に興収のことを考えたら、数多あるMCUの人気キャラクターをどこかで配置したくなっても不思議ではありませんが、しかし、そういうことをしなかった。だからこそこれだけの熱狂を生んだんだろうし、ビックバジェットムービーだからこそできる、ビックバジェットムービーにしかできないことを見事にやってのけたし、なによりもこの映画を貫くそういう意思の強さに、わたしは心底胸打たれました。

そしてその胸打たれた状態で迎えたポストクレジットシーンで、おーい!知ってた!知ってたけどね!とひいひい言ったわたしです。いやーほんとうにインフィニティウォーが楽しみですね!