「八月納涼歌舞伎 第三部」

「盟三五大切」。幸四郎さんの源五兵衛、七之助さんの小万、獅童さんの三五郎という顔ぶれ。七之助さんも獅童さんも初役というフレッシュな布陣!ついこの間、仁左衛門さまの源五兵衛でなんかもう、究極の芸!みたいなやつを見てしまったあとなので、いろいろ較べてみてしまう心理はありつつも、基本的に好きな芝居なので楽しく見られました。

南北が「東海道四谷怪談」を書いた直後にものしたというこの盟三五大切。何が好きって、この南北独特のフェティッシュさというか、どエロさ、エロいんだけどそこに切なさが滲むみたいなシーンが大好きなんですよね。東海道四谷怪談でいったらあの有名な髪梳き、鉄漿を塗って一心に髪を梳く、毒薬によって顔が醜く変貌してしまった女…っていうあの場面にトドメをさすし、盟三五大切なら小万殺しの凄惨さと、その小万の首を抱いて帰る(しかも帯にくるんで!)源五兵衛、そしてその小万の首と差し向かいで茶漬けを食うっていう…大南北せんせい、あんたやっぱり天才や!ってなるじゃないですか。

今回は五人切の場面でかなり直截的なギミックを使っていて、私が見たのが初日開けて間もなくということもあったかもしれないんですけど、ちょっとまだ段取りが勝ってるという感じがしたのが残念でした。丸窓障子に浮かび上がる影、ぬっと差しだされる白い脚…というだけでも絵力満点なシーンだし、あまり過度な見せ方をしなくても、半分狂気の世界に足を踏み入れたような源五兵衛の佇まいだけでじゅうぶん見せきるシーンなんじゃないかなーという気がします。あと照明の変化がちょっとカクカクしいのも気になったな。これもだんだんこなれてくる部分だろうとは思いつつ。

小万殺しは幸四郎さん、七之助さんともに良かった、見入りました。七之助さんの小万、悲劇の女というよりは、最後のほんとうに抜き差しならないところにくるまで自分に身に差し掛かった影に気がついていない、というような陽性な部分があり、だからこそ幸四郎さん演じる源五兵衛の、色がまったくそこだけ落ちたような、カラーで描かれた絵画が彼が動いた分だけ白黒に変わっていくような、そういうダークさといい相性だったと思います。欲を言えばあの首を持ち帰るシーンはもっともっとたっぷりやってもらいたかった!ちょっとあっさりしすぎていたような気がして残念。まあ私があのシーンを特大に好きというのもあるんですが!

愛染院での小万の首を前に茶漬けを食う場面、あそこ生首演出ない方が好きだな~。お茶をぶっかけるほうが私の嗜好にドンズバです(知らんがな)。殺しの場面をはじめとするフェティッシュさと同時に、100両という金が動くたびにひとが死んでいく(しかも、騙した方も騙された方も実は同じ一つのものを表裏から見ていただけ)っていうシニカルな筋書もこの物語の面白いところで、当時あれだけ世間を熱狂させたであろう赤穂義士の討ち入りというやつをここまで冷徹に書いちゃうっていうのもホント…大南北せんせい、あんたやっぱり天才や!