「八月納涼歌舞伎 第一部」

コンパクトにまとまった見やすい作品が三つ並ぶので、今月いちばんおススメしやすいのは第一部かもしれない。
「花魁草」。安政地震で江戸から命からがら逃げた男女が偶然出会って…という筋立てで、芸者のお蝶を扇雀さん、大部屋役者の幸太郎を獅童さんが。獅童さん、第三部の三五郎もいいけど、個人的にはこういう役のほうが似合う感じがするのがおもしろい。滲み出るいいひとオーラ。ふたりを助ける百姓夫婦が幸四郎さんと梅枝さんという、えっ!ちょっ、どういう!?と目を疑うような配役。にしても梅枝さんなにやっても達者だわ。幸四郎さんは嬉々として演じてらっしゃって見てるこっちも楽しかった。さらっと出て江戸の香りを匂い立たせる萬次郎さんよかったなー。

「龍虎」。幸四郎染五郎親子での舞踊でございます。私個人の嗜好として「きれい」とか「うつくしい」よりも圧倒的に「かっこいい」に高い配点がつく人生をおくってきたので、幸四郎さんのキレのある踊りに大満足。はーかっこいいわね。引き抜きとかの趣向もふんだんにあって、短いけれどツボをおさえた演目だなーと思いました。

「心中月夜星野屋」。落語の噺を元ネタにした新作歌舞伎です。七之助さん、獅童さん、中車さんという顔ぶれ。登場人物が少なく、またお三方ともに抜きんでたコメディセンスのある方なので、非常に楽しく見られました。お話としては、おんなのまごころを試すために芝居を打つ…というところがタネ明かしになるんだけども、試した方もそれなりの痛い目にあったほうが溜飲が下がるよねと思う私。あと、最初に心中の約束をおたかがしちゃうところ、旦那が芝居好きなのでついつい調子を合わせた、っていう設定がもっと活きると面白いのになと思った。全然違うこと思ってても名セリフがくると咄嗟に合わせちゃってまたにっちもさっちもいかなくなるみたいなのもあってよかったかも。獅童さんの女方なかなか拝見する機会ないけど、お熊さんよかったな~。笑いのセンスがあるのは言うまでもないんだけど、ちゃんと品のある(そしてちょうしたたか)な母親でしたね。この落語→歌舞伎シリーズ、今後も続いていくのかな。本家の落語のほうもちょっと見てみたくなりました。