「ドキュメンタリー」劇団チョコレートケーキ

  • 小劇場 楽園 RA列2番
  • 脚本 古川健 演出 日澤雄介

薬害エイズ訴訟において原告となったミドリ十字を題材に、その内部告発者のインタビューという形をとって構成された作品。作中、名称は変えていますが(ミドリ十字はグリーン製薬というように)、裁判等で明らかになった事実をもとにしており、文字通り「ドキュメンタリー」の色合いがとても濃いです。

製薬会社と厚労省の癒着体質、いわゆる「忖度」が蔓延する新薬の承認、内情を知りながらもそれを売り続けるプロパーの苦悩、というところまでは、この題材である以上当然に語られることだろう、という予測がつきますが、後半に「創業当時の幹部」がインタビューの相手に登場することにより、非加熱製剤が危険だという認識をもったうえで「なぜ」口を拭って投与を続けることができたのか、というところに踏み込み、「731部隊の遺産」というところにたどりつくところが極めてスリリングでしたし、そのまさに「遺産」を描く新作をこの秋連続して上演する…という畳みかけのうまさに、劇団としてのポテンシャルの高さというか、制作の優秀さを見た思いです。いやこれはね、その「遺産」をどう描くのかどうしても気になっちゃいますって。

基本的にインタビュー、聞く者、聞かれる者の対話なので、平板になりそうなところをまったく退屈させない構成にしていて見事でしたし、話を盛り上げるためにやたら登場人物の一人が激昂する、みたいな場面もほとんどない、淡々としているのに、真からおそろしさを感じるような瞬間が何度もある。脚本のうまさをしみじみ感じました。「楽園」のあのど真ん中に鎮座する柱の裏に電話機を置くことによりデッドスペースを生かした演出がなされていて、これも舌を巻きました。

血液製剤やそれに関する単語についても、内部告発者がひとつひとつ説明していく、というスタイルをとっていて聞く者に対する入念な知識の導入がなされているのもよかったです。もちろん知っている単語で、かつ社会的に共有されている知識であっても、「なぜそれが問題なのか」を組み立ててから見せたいものを見せるのはさすがですね。

余談になりますが、わたしがエイズ、「後天性免疫不全症候群」のことを知ったのは、実は少女漫画がきっかけでした。秋里和国さんが1980年代描かれたTOMOIシリーズ。この劇中でも「ホモがかかる病気という誤った認識」という台詞がありましたが、実際にそういった認識が当時は大手をふってメディアに書かれているような時代でした。あの時代にあって、そういった偏見を描きつつ、正しい認識を描こうとした秋里さん、それを描くことを許容した当時の編集部の先見の明には今改めて頭が下がる思いです。