「ジャージー・ボーイズ」

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  • シアタークリエ 11列13番
  • 演出 藤田俊太郎

ブロードウェイのロングランミュージカル、2014年にはクリント・イーストウッド監督で映画化もされています。日本版初演は2016年、その年の読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。文字通り鳴り物入りでの再演です。

とにかく、私がこれからあーだこーだいうことを読む前に、このあとツアー公演がありますから、自分が行けるところはないかな?あったら、どこかにチケットはないかな?と探して、ぜひ足を運んでください。行って、観て、観ればわかります。今回再演のBLUEチームを拝見して、いつもだったら「再演してくれたおかげで観られてよかったな~」と思うところですが、これに限っては「なんで初演を観てない!?!?わしはアホか!?!?」となりました。なりましたね。初演を観ていたらもっと気合入れてチケット取りに挑んだのに~!(いや今回も結構力入れたんですけどね)。映画も見ていて、おもしろそうだなーと思いながらスルーしたあの時のおれ!ばかなのか!

実在したバンド、フォーシーズンズの、その名の通り春夏秋冬の4つの場面を、メンバーそれぞれが語り手となって見せていく構成で、彼らにとってエポックな出来事を中心にしつつ、展開はきわめてスピーディ。なのに、総花的な印象はなく、メンバーそれぞれの心の動きがしっかり汲み取れる。これは楽曲の配し方、その見せ方のうまさによるところが大きいんだろうなあと。普通のミュージカルと違い、実在したバンドの既存の曲を、そのメンバーの人生に沿って聞かせているので、感情の高ぶり=歌、というわけではないのに、幸福の中の不幸、不幸の中の幸福のような複雑な色合いさえちゃんと見せてくれる。

また舞台装置の素晴らしさね!盆をうまくつかっていて、回転するステージ、スタジオ、楽屋…と色んなものに見立てることができるっていう。左右のモニタも、彼らが実際に出演した当時のテレビショーの空気感を醸し出すのに効果があってよかった。

ひとつのバンドが生まれて、春の喜びを味わい、夏を謳歌し、やがて秋が来て…フォーシーズンズに限らず、いちどでもこういった集団に骨絡みで思い入れたことがあるひとには、この崩壊のどうしようもなさにいろんなものを見てしまうだろうと思う(実際、2014年の映画版を見たとき、わたしは真っ先に自分が好きなバンドのことを思い出した)。だがしかし、最後には音楽が残る。彼らの春も、夏も、秋も冬も、結局のところ、いつもそこに音楽がある。友人のためにこれを世に出したい、そう願うメンバーの台詞に、あの旋律が重なるところ、あの、すべてを塗り替えるポップソングのマスターピースがそのメロディを響かせるその瞬間、理由もなく涙があふれ、止まらなくなる。

BLUEチームを拝見したのですが、トミー役の伊礼彼方くん、ハマリ役すぎでしょう!ちょっと魅力あるどうしようもないクズ、なのにどこかジャージーの「血の掟」みたいなものを信じてそうな男、ずっぱまりでした。あと歌ってるときに息するようにウィンク飛ばすのやめて!そういうの大好きだから!矢崎広さんのボブ、ひとりだけ若くしてあのメンバーに入ってきた感満載のかわいさ、かと思えば妙に達観していたり、抜群の存在感でした。トミーもボブもね、最後の場面でステージ去る時ウィンクをキメてどちゃくそかっこいい去り方するから拍手を忘れてしまいますよ(叩くの忘れて拝んじゃう)。spiさんのニックもよかった、伊礼くんと並んだ時のコンビ感めっちゃいい、そして私はこれは映画でもだけど、ニックがタオルのことでキレるシーンが大好きなのです…(集団の崩壊って、これだよね、とあんなに思わせるシーンはなかなかない)。spiくんのニックすごく安定感のあるキャラだから、よけいあのシーンが効いてるよなーと思いました。

そしてどちらのチームでもフランキー・ヴァリを演じてる中川晃教さん!アッキー!もう!これアッキーのためのミュージカルでは…と思ってしまうし、いやもうとにかく観て!!!!って私が推すのも、アッキーがヴァリをやっているところを観てほしい!!って気持ちが強い。声ってほんと武器。役者の最大の武器だよ。あの説得力…余人をもって代えがたいとはこのことか、ですよ。このスケジュールでずっとセンターに立ち続けるの、言葉では言い尽くせないほど大変なことだとおもうし、このアッキーがいるからこそ、カンパニー全員の志が常に上に、上にむかっているんだと思うし、そのことが客席にも伝わっているんだと思う。だからこそのあの最後の多幸感、あの来し方を語る彼らと彼らが生み出した音楽にただただ拍手を送りたくなるんじゃないかと思います。

カーテンコールの最後の一瞬まで、ぎゅうぎゅうに「演劇の楽しさ」がつまった、シアターゴアーにとっての御馳走のような作品でした。なんども言うけれど、ぜひ、ぜひ、実際に足を運んでみてほしい。後悔させません!