「またここか」

小泉今日子さんが主催する「明後日」のプロデュース公演で、脚本をあの坂元裕二さんが書きおろすという。坂元さんが朗読劇をおやりになったのは知ってたんですけど、拝見する機会がなく、連続ドラマであれだけのパンチラインを繰り出すひとが舞台脚本としてどういうものを書くのか、という興味があってチケットをとりました。

まだ初日が開いたばかりですので、これからご覧になる予定の方は以下に物語の展開を書いていますのでお気をつけください。

舞台はとある東京郊外のうらさびれたガソリンスタンドの事務室。かみ合わない会話をする店長とバイト、そこにやってくる男と女、男はガソリンスタンドの店長に向かって言う、はじめまして、あなたの兄です…。

前半に執拗に繰り返される、かみ合わない、または脱線して元の位置に戻れなくなる会話が、後半にはその意味がきちんと明かされ、コメディと思っていたものがまったく違う何かに顔を変えていく、という展開で、なんというかちょっと、ケラさんの一部の作品と通じる展開、温度を感じたのが自分でも意外でした。テレビで拝見する坂元さんの作品とケラさんの作品を似てるなんて思ったことなかったからなあ。

物語の前半の展開の描かれ方があまりにももっさりしすぎているというか、会話が走っていかない、グルーヴが生まれてない、なんだか指揮者のいないオーケストラ演奏を観ているような感じがして、正直ちょっとつらかったですね。ああいう会話でちゃんと笑いを生み、物語を推進させていくってやっぱり相当緻密な演出が必要なんだなと思いました。東京無線とかローソンとか、観たらわかる事象で笑わせるんじゃなくて、会話から生まれる間とリアクションで笑いを生んでほしい。募金箱のお金を「あれ地球環境のやつなんです。もううちの募金箱じゃどうにもならない!」とかすごい面白い台詞なのになー。

しかし、後半の怒涛の展開はよかった。兄がめんどくせえ!って戻ってきて、弟の心臓に語り掛けるところ、そしてお話を書かせるところ。小説で大事なのはどこに線を引くかだ、小説に書くことはたったふたつ、本当にはやっちゃいけないこと、もうひとつは、どうしてもやり直せない、後悔していることをお話の中でやり直すこと…。ここの兄の怒涛の台詞はもう、全部いい。作家が「書くこと」を語るという点でも凄みがあるし、岡部たかしさんの芝居がまたすばらしい。この面々にあって一日の長があるという感じ。

ラストシーンはあってもいいけど、なくてもそれはそれで好きなような…つまるところあれが「小説に書くことはたったふたつ」という、そのふたつが詰まった場面なので、あったほうが切なさが増すという人と、ない方がいいという人に分かれそうな感じはあります。

いくつかの連続ドラマを拝見していて、坂元裕二という脚本家はつくづく「手紙」というものが、いや手紙そのものというかそこにいない誰かに言葉を残すってのが好きなんだなと思っていたけれど、今回もまさにどんぴしゃで「届かない手紙」がキーになっていたので、やっぱり!と思うと同時に、坂元さんの描く「手紙」のドラマが大好きな私としてはありがとうございますううという気分になりました。

ロビーで延々繰り返される大きな声でのあいさつもどうかと思いましたが(関係者がたくさんいらっしゃってるだろうというのはわかるんですけど)、そのほか制作としてはもうちょっとがんばっていただきたいと思ったところも多数ありました。今後の改善に期待いたします。