「芸術祭十月大歌舞伎 昼の部」

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三人吉三巴白波」。コクーン歌舞伎で馴染みの演目三人吉三、大川端の場。お嬢七之助さん、お坊巳之助さん、和尚獅童さん。わたしお嬢みたいな役をやっている七之助さんがだーい好きなのでにこにこしながら見ちゃった。あとほんと台詞…いい…「こいつぁ春から縁起がいいわえ」ってお正月番組とかで煽りに使われたりするけど、いやそれ心優しい女の子だまして堀の中に蹴落としてまんまと懐の百両せしめたあとの台詞ですぜ…ってなるよね…(笑)

大江山酒呑童子」。ありがとうございまーす!(のっけから)まごうことなき私にとっての大御馳走。昨年暮れの南座で拝見して、「ハア~このあと勘九郎さんしばらく舞台お休みだけどこの酒呑童子という飴をなめて待っていろということなのねぇ~」とひとり合点したほどに好物しか入っていない幕の内弁当もかくやというあれです。それを1年経たずに歌舞伎座で!ありがとうございまーす!

花横のお席で拝見していたので、出のときのふわっと立ちのぼる香りも、それまでのあどけない顔が「酒」という単語が聞こえてニマァ…と口元がゆるむさまも、そしてこれみんな言ってるけどぜんっぜん瞬きしないあの「黒洞々たる」と表したくなる目も、がっつり堪能させていただきました…至福…。

舞台の中央に走り出るときも、ととととと、とオノマトペを使いたくなるようなあどけなさのある動きなのに、酒を前にした時の口が顔の半分まで裂けたかと思うような「この世のものでなさ」感がホントに最高だし、あと童子の姿で舞いながら扇で顔を隠した向こうに鬼の表情が浮かぶアレ!もう、あそこほんとうに大好きだ。たぶんああやって聖と邪というか、あちら側とこちら側の端境みたいなものを見せてくれるものが私のツボで、勘九郎さんはそのツボにこれでもかー!と蹴りを入れてくれる役者さんなんですよね。

それにしても花道でのあの跳躍、いやもう…すごいな!知ってたけど!最後の仏倒れまで満点勘九郎さんだった。平井保昌の錦之助さんかっこよかったなー。隼人さんや歌昇さん、児太郎さんに種之助さんと、華やかな顔ぶれがそろって見応えがありました。そういえば、鬼の姿になったあとで頼光たちにハーッと白い息を吹きかけるギミックを仕込んでたり、いろいろ試してらっさるんだなあと。葛桶に腰かけて踊るときも、暮れに拝見したときは桶が動かないように後見さんが肩を入れて支えてらっしゃった記憶があるのだが、多分今回使われてる葛桶は体重が桶そのものにかからないような仕掛けがあるのか、後見さんも普通に控えてるだけだったので、表も裏も創意工夫を重ねての今のこの舞台なんだなと思ったりしました。いやはや、それにしても引き続きの大御馳走、満腹でございます!

「佐倉義民伝」。初見です~。コクーン勘三郎さんがおやりになったやつは多分見逃してると思うんだ。木内宗吾を白鸚さん、ご自身の襲名の真っ最中にこうして大きな役でおつきあいくださるその懐の大きさ…もはや拝むしかない…!

ざっとあらすじを見て、なかなかにつらいお話っぽい!と思い身構えていたのだけど、それほど暗い気持ちにならずに見られてよかった。まず最初の渡し小屋の場面での、歌六さんと白鸚さんのやりとりがよすぎて、そこからぐっと物語の波に乗れて見られたのがよかったのかなーと思います。歌六さんてほんと…なんなんでしょうかあのうまさ。昼の部も夜の部も、確実に求められたものに上乗せして見せてくださるような芸の力、すばらしすぎます。

おさんの七之助さんがまたまたまためっさよくて、初役とは思えないはまりよう…。宗吾に淡々と現在の窮状を告げるときの声のトーンとか間とかが絶妙で、見ているこっちが「あーそれ聞かないであげてー」って思わず気をもんでしまいそうになる。あとあのお子さまたちのね、ほんとうに聞き分けが良くてずっとがまんしている「いい子」があそこで父親にすがるとこ、「夢を見た」っていうとこ、いやもう簡単に涙腺の蛇口開きますってば。

最後の場面が一転して華やかな上野の寛永寺なのも、さっきまでのモノトーンばかりの世界と色味の鮮やかさの対比が効いていて、宗吾の訴えの切実さが一層際立つような効果があるよなあと思いました。うっかりしてたけど(するな)最後の最後に勘九郎さんも出てきてすごい得した気分になりました。高麗蔵さんの伊豆守がまたこの人になら託せる!というような人格オーラがあったおかげもあり、芝居としてはすがすがしい終幕だったのも良かったと思います。