「當る亥歳 吉例顔見世興行 夜の部」

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仁左衛門さまのいがみの権太で義経千本桜「木の実」「小金吾討死」「すし屋」。待ってました!四月に勘九郎さんが初役で権太をつとめられるので、その前にこれ以上ない教科書を拝見できて嬉しいです。とはいえ上方の仁左衛門さまとはまた違う型にはなるんでしょうけども。
にざさまの権太、なにがすごいってとにかくものすごいかわいげがある。稚気といってもいいぐらいの愛嬌あふれる権太で、木の実で小金吾たちからお金をだまし取る手口なんて、あくどさの極みみたいなやり口なのに、人物の魅力を損なっていない。小せん(秀太郎さんとの阿吽の呼吸!)とのやりとり、息子の手を取って「冷たいなあ」と頬で温めてあげるところ、この後の展開を知ってるとむちゃくちゃ胸をつまらせるやつや…。千之助くんの小金吾もよかったな、ほんとに力いっぱいで観ている方も手に汗握る感じでした。すし屋は時蔵さんに扇雀さん、左團次さんに梅玉さんと、ぶ厚い!なんというぶ厚さ!という布陣で、もはや見応えしかない。いやこの幕だけで2時間25分という長尺ですけどまったく集中力切れずに見ることが出来ました。権太が戻ってきてからの芝居はもう、それまでどれだけ引いた目線で見てても、あの陣羽織をかぶるところで一気に涙腺の蛇口がどばー!となるので危険すぎた。あと「木の実」をやってるとあの笛のところがめちゃくちゃ泣ける。ああいうのほんとだめ。
それにしても、権太が身を挺した孝行も、すべては大きい歯車の中に飲み込まれるものでしかない、っていうこのシニカルというか、アイロニーというか、こういう物語のエッセンスを当時の人たちが好み大評判をとった、というのがほんと面白いですよね。勧善懲悪とはまったく別のところに惹かれる何かがあったってことなんでしょうね。

「面かぶり」。鴈治郎さんの舞踊、初めて見る~と思ったらものすごく久しぶりの上演みたいですね。なんと名刀鬼切丸の精霊が踊るっていう、擬人化めっちゃ時代先取りしてるやん!と思いました。「弁天娘女男白浪」、愛之助さんの弁天小僧で。娘姿のときもいいけど、やっぱり見顕ししてからがぐっと芝居が大きくなって見応えがある。鳶頭の亀鶴さんがむちゃくちゃハマっててよかった!稲瀬川勢揃いの場も上方多めの座組だとどことなく水分多めのツラネだったり名乗りだったりになるのがおもしろかったです。

三社祭」、千之助さんの善玉、鷹之資さんの悪玉。いやーーめちゃくちゃ見ごたえありました!鷹之資さんが踊りの名手というのは漏れ聞こえていたので、楽しみにしていたんですが、いやはや聞きしに勝るでした。ど素人が観てもはっきりわかる踊りのうまさ、うまさというか、もはや達者、あの若さでそんな風格すらありました。なにしろ、見ていて本当に気持ちがいい!また一緒に踊っているのが同世代の千之助さんというのがいいよね。この、お互いに支え合いながら食らいついていく感じ、滾る!滾るぜ!!こういうものが観たくておれは劇場に通っているぜ!勘九郎さんの踊り大好き人間の私としてはすぐに「鷹之資さんと勘九郎さんで何か踊ってほしい~」と思ってしまうのですが、いや勘九郎さんとに限らず、いろんなひとといろんな作品をやってほしいし、それをまた観に行きたいと思わせる一幕でした!