「源八橋西詰」T-works

女優の丹下真寿美さんをできるだけ沢山の人に見てもらいたい!というところから始まったユニット「T-works」の第1弾。96年に初演された遊気舎の作品を、なんと!後藤ひろひと自らが演出して出演もするという!いやもう、よくぞ後藤さんを演出にひっぱってきてくださった、と本当にお礼を申し上げたい。さらにキャストとして初演オリジナルキャストの久保田浩さんが、そしてジョビジョバ坂田聡さんが参加するという。んもう、絶対見る!丹下さんのことは寡聞にして存じ上げませんでしたが、ユニットの第1作にこういう作品をチョイスしてくるんだから(そして大王が演出を引き受けているのだから)きっといい女優さんに違いない、と。

源八橋西詰は大阪に実際に存在する四つ角の交差点で、そこに佇む3人の人物の物語が語られる。ロバート・ジョンソン「クロスロード・ブルース」、「悪魔に魂を売った男」。果たしてその3人は、交差点で悪魔を待っているのだろうか。

言ってみれば3本のオムニバスでもあるのですが、「源八橋西詰」という通底した物語の枠組みがあり、それぞれの物語に「シンパシーとワンダー」がきっちり練り込まれている。後藤さんの脚本はなんというか、それこそ悪魔的な冴えがあり、今作も、今まで自分が握っていたと思った物語の端っこが、いつのまにか全然違うものになっているというような劇的興奮がありました。

この作品の「童話作家の話」がのちの「人間風車」の元ネタとなるわけですけども、いやはや…詳細を書くのは今後見る方の楽しみを奪うことになるので控えますが(いやでもめっちゃ詳細言いたい)ほんと、唸ります。いい脚本を書くひとは勿論沢山いますが、後藤さんの作品のオリジナリティというか、このトリッキーなホンのうまさ、という点において、この人の悪魔的な腕には舌を巻きっぱなしです。どういう頭の構造してるんだろ?ほんとに。大王こそ源八橋西詰で悪魔と取引をしていても驚かないよ。

丹下さんを売り出す!という目的のユニットということですが、十分にその役割を果たせていたんじゃないでしょうか!「舞台女優の話」でのキレっぷりと最後の落とし方、「童話作家の話」での天衣無縫ぶり(客席いじりも懐かしかった!)いずれもよかったです。デアゴスティーニー!の叫び、笑いました。久保田浩さんは自由自在な芝居ぶりもさることながら、坂田さんとともに容易に底を割らない演技で最後まで舞台の緊張感をひっぱっていく、さすがですねえ。

大王はこれともう1作で小劇場はもうやらない、と仰っておられるみたいですが、いやーまだまだ観たいよ。いや小劇場でなくてもいいけど、大王が書いて演出する作品を観たい、観たいです。