「日本の歴史」

  • シアタードラマシティ 2列27番
  • 作・演出 三谷幸喜

キャスト7人、ミュージカル、卑弥呼から太平洋戦争までの1700年を2時間半で…という三谷さんの新作。私は三谷さんの歴史ものに信頼を置いているので(だって一番好きな三谷戯曲が『彦馬がゆく』だもん)、どういうアイデアでくるのか?と楽しみにしていました。実際観劇してみて、まず浮かんだのがこの言葉。

時に古今の差なく、国に東西の別はない。観じ来れば、人間は始終同じ事を繰り返して居るばかりだ。今から古を見るのは、古から今を見るのと少しも変りはないサ。(勝海舟/氷川清話)

いや、まさにこういう舞台だったよねっていう。ちなみに私がこの言葉を知ったのは「彦馬がゆく」で三谷さんがパンフレットで引用していたからだよ!ということでこれは三谷さんの歴史観でもあるんだと思う。もうひとつ、そうそうそう!と思ったのが秋元才加さんが出てきてのたまう「歴史の勉強を暗記で覚えてどうする」的なあれ。大事なのは因果、原因の因に結果の果。そう!(力強く)私は学生時代、世界史がいちばん好きな科目だったんですが、高校の時の世界史の先生がむちゃくちゃ良い先生で、歴史上のどんな物事もそれによる作用と反作用がある、歴史はその繰り返しと語っていたのが時を経て鮮烈に思い出されました。

三谷さんの宣言通り「卑弥呼から太平洋戦争まで」の1700年を追うのと並行して、アメリカ南部の一家の一代記を重ねて描き、最後にはそれが交錯する(しかもかなり悲劇的に)という構成で、すごいトリッキーなんだけど、そうは見せないところがすごいですよね。日本史上の有名な場面が演じられると、それに類似した「現代」の場面が展開する。過去と現在の登場人物が同じ境遇に陥り、同じセリフを言う。この悩みはいつか誰かが通ってきた道、と繰り返し歌われ、時の流れはぐいぐいと進んでいく。この「とてつもなく大きなものと小さなものを同じ手のひらに乗せる」というやり方はかの名作、ソーントン・ワイルダーの「わが町」も連想されるところです。

歌のシルビア・グラブさん、芝居の中井貴一さんという「間違いない」どセンターがちゃんといること、キャスト全員ちゃんと歌えるメンバーを揃えていることもあって、安定した芝居だったな~と思います。アンサンブルとしてサッと引く時、ここは自分がバトンをもって前に出る!という時のチームワークも完成されていて、見ていて非常に気持ちが良かった。取り上げられる日本史のエピソードが、中盤までは割と有名どころなのに、幕末近くになるとかなりニッチなところを攻めてるのも三谷さんらしいなと思ったり。それにしても、中井貴一の頼朝、香取慎吾義経であの黄瀬川の再会に想いを馳せさせる…なんてむちゃくちゃ贅沢な場面でしたね。もうあそこだけ大河ドラマ感すごかったね。キャスト全員の長所を如何なく発揮させる脚本だな~と思いましたし、終盤、音がしそうなほどパリッとしたタキシードをキメて踊る香取慎吾なんてものまで観られて、いやもう成仏しそう…ありがたすぎて…とか思いましたよ。ちなみに一瞬かすめるようなウインクをかます時があって、横の女の子が文字通り「ハッ…」と胸に手を当ててしばらく硬直していたので「絵に描いたように被弾してる…!」と思いました。そういえば赤報隊の相楽はかなり局長みもあったね…三谷さんありがとうだね…。新納さんの家重も「真田丸」ファンには嬉しい役どころだったし、個人的には信長のスタイリストが最高(笑)大好きです。

もうひとつ、芝居とは直接関係ないんですけど、とあるシーンで慎吾ちゃんをトップに後ろ向きでV字のフォーメーションになるところがあって、その時の香取慎吾の背中がなんというか、すごかった。客に背中を向けて立つ、ってだけですけど、あの瞬間のかれはまさしくスターでした。何万人もの視線を背中に浴びてきた男の貫禄というか、オーラというか。ホント役者は声と立ち姿で9割決まるよね…(しみじみ)。

そういえば、つい先日見た野田さんのインタビューで、休憩時間を挟むと二幕は客がぐっとオープンになる、みたいなことを仰ってたけど、これもまさにそんな感じがしたな。ルールがわかって一息ついて、次は全力でその世界に飛び込める、って感じなのかな。個人的には一気に見せる芝居が好きなんだけど、なるほどそういう効果もあるんだな~と思いました。

INGAのダンス、楽曲もふくめてむちゃくちゃインパクトあって、最後に皆がこれで踊って終わるのもよかった。カーテンコールも楽しく、充実した2時間半でした!