「こそぎ落としの明け暮れ」ベッド&メイキングス

2018年に岸田戯曲賞を受賞した(おめでとうございます)福原充則さん主宰のベッド&メイキングス新作公演。小劇場界でも剛の者という印象の強い女優陣をこってりそろえたキャスティングで楽しみにしておりました。

物語の流れを堪能するというよりは、それぞれのキャラクターが束の間見せる、生きていくことへの方便、その必死さがあふれてくるようないくつかのシーンにかなり心を持っていかれた感じでした。たとえば害虫駆除業者の女性が、虫が好きで、その虫のことを考えるあまり「本当にいなかったら」という想像に耐えられず実物を見つけることをかたくなに拒む台詞や、「死にたい」わけじゃないけど「死んでもいい」と思っている、そのぼんやりした希死念慮について「ここまで迷った道を歩いてきて、戻ろうにももう道はないし、でもここからまた新しい道を探すには年を取りすぎている」って語るところとか。感情移入とはまた違う、そういう思いが確かに自分の中にもある、あったと思わせる台詞が随所にあって、かなり引っ張られて見ていた気がします。

夫の「君」を探す旅にしても、「あ」と「い」の喪失にしても、「虫」の存在にしても、完全に地続きの世界にちょっとした異分子があって、でもそれを異分子とは書かない、みたいなのってなんとなく福原さんの作品に通底してあるなあと思ったり。

飛び降りて死にたいわけじゃない、でも崖から足を滑らせて死んでもいいと思ってる、そして姉にそうさせたくない妹。姉妹の「祈れ、妹」「落ちるな、姉」の剛速球の投げ合いがむちゃくちゃ心に響いて、そうなんだよな、何をしてほしいわけじゃないんだよな、ただ、そっちへ行くなって自分のために祈ってくれる心と言葉さえあれば落ちないでいられるんだよなって思って、このシーンはほんとうに涙が出ました。最初の手紙が緑色(松葉色)で書かれてる描写があるのも、そういうことなんじゃないのかなって。みどりのペンで書くと願いが叶うなんて迷信があるくらいだもんね。

女優陣(そしてその中でぶん回される富岡さん)皆すばらしく、なかでも野口かおるさんのパワープレイヤーぶり、はちゃめちゃなようでいて決めるときにものすごいど真ん中の球を決めてくるうまさ、すばらしすぎましたね。もうひれ伏しちゃう。私は本当にこういう役者さんに弱い!島田桃衣さんのあっけらかんとした悪辣さ、ぜったい友達になりたくないけど目が離せない感じがすごかったなー。男性は富岡さんだけでいわば白一点のキャストなんだけど、そういう印象が驚くほど薄く、そこも私としては気持ちよく見られた点だったかなと思います。