「けむりの軍団」

劇団☆新感線旗揚げ39周年を記念した「39<サンキュー>興行」、夏秋公演は古田新太をセンターに据え、倉持裕さんの脚本にいのうえひでのりさんの演出という「乱鶯」コンビ。いのうえ歌舞伎《亞》alternativeの第一弾。

頭はキレるがいまいちここぞという運にめぐまれず、仕官もできずに浪人暮らしをしている真中十兵衛は、ひょんなことから騒動に巻き込まれ、賭場でテラ銭泥棒をしてヤクザに追われる美山輝親を探し出さなければならない羽目になる。十兵衛と輝親はその珍道中のさなか、人質として嫁入りした大名家から逃亡を図る厚見家の姫、紗々と彼女を守護する雨森源七と出会う…という筋書き。

飛び立つ水鳥の音を敵方と思い込んだとか、バーナムの森がダンシネーンの丘に向かってくるまではとか、古今東西「敵を大きく見誤る」というエピソードや、はたまた超少数の味方軍が陣地に圧倒的多数の敵方をおびき寄せ、あちこちで工夫を凝らした罠が炸裂する…というような展開はそれこそ洋の東西を問わずみんな大好き(今公開中のワイスピスーパーコンボでもまさにその展開ありますね)で、風評を逆手にとって十兵衛が敵方の襲撃をくぐり抜ける、という見せ方をするのは倉持さんらしいロジカルさが出てて面白かったです。

けむりの軍団という「かつてあった無頼の党」をキーにしていたわけですけど、これ同じ題材を中島かずきさんが書いたら「実はけむりの軍団とは…」みたいなストリーラインがあるだろうなと思ったし(そして話が長くなる)、そこが漫画的世界のかずきさんと劇画調の倉持さんの違いでもあるよなーと。莉左衛門が目良家から孤立していくところとかかなりじっとりした書き込みぶりで、よかったです。

うまいなと思ったのは、この物語の上では目良方がわかりやすくあくどい「敵方」でありながら、敵対する厚見家側の所業に触れる面があるところ。ここで美山輝親、実は…という正体が明らかになるんだけど、いわゆる「ぶっ返り」みたいな見せ方はせずに、あくまで輝親ののんしゃらんとした姿勢はそのまんまで見せてるところですね。むちゃくちゃ時勢を見極めたクレバーな判断ができる人にも見えるし、ただのん気なだけとも見えるしという。しかし、その一切気負いのない輝親こそが今回劇中でもっとも鋭い台詞を吐くというのがいい。

古田さんはいつもの肚の据わった殺陣がたくさん見られる良さと、頭の良いキャラなのでもうちょっと台詞がんばってー!(噛みが!多い!)という部分とありましたが、成志さんとのコンビネーションは文字通り安定の面白さ。最初の方はそうでもないけど、太一くんとの一騎打ちのところはさすがに腰の低い、タメのある殺陣がたくさんみられてよかったです。ただあれよね、やっぱり一匹狼としての貫禄がありすぎて、仕官を求めるようなキャラとはちょっと違うなっていうのもあった。成志さんはねえ、うまい、ほんとうにうまい。いつもの裏切りキャラかと見せて(まあそれも本質なんだけど)、この争いがだれの、なんのためのものか、という言ってみればキメの台詞があるんだけど、そこで「キメるぜ!」みたいないやったらしさがまったくない。さりげない、だけど、ちゃんと届く。古ちんの投げてくるボールをぜんぶ拾う(というかこのふたりはお互い投げてお互い拾い合ってる、すげえな)反射神経もすごい。いい仕事しはるわ!

早乙女太一くんの今回のキャラ、言うまでもなくただ普通にカッコイイ台詞をいうより数百倍難しいと思うんだけど、果敢に攻めててよかった。脚本としてどういうときに彼の「言葉の混乱」が起こるのかのフックをもう少し書き込んであったら太一くんとしてはもっとやりやすかったかも。その方が見ている方も笑いにつながりやすいよね。しかし、殺陣の素晴らしさはもはや一観客に何を言うことがあろうか…みたいなアレ。人外の速さよな~。個人的には終盤川原さんとの対決があったのがアガった!!これホントずっと観ていられるやつや…ってなりましたもんね。

聖子さんも粟根さんも見せ場があって(粟根さん長物ちょうお似合い)、物語の密度がありつつ3時間で収まってくれたのもありがたかったです。惜しむらくは転換のたびにスクリーン(映像)が使われることで、まあもう新感線ぐらいの規模になったらしょうがない部分もあるんでしょうが、個人的にはいつまでたっても慣れない…などと思うのでありました。