「ロケットマン」

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エルトン・ジョン製作総指揮のもとで語られる、彼本人の半生。監督は映画「ボヘミアン・ラプソディ」をブライアン・シンガー降板のあと引き継いで完成させた、デクスター・フレッチャー。主演は「キングスマン」シリーズでもおなじみタロン・エジャトン

よかったーーー。昨年ボラプが爆発的なヒットをしたあとで、描かれている時代もそれほど遠くないので比較されるかもしれないけど(とはいえ当たり前だけどボラプがヒットをしたから制作したわけじゃないッス)、本作のほうはかなりしっかりミュージカルとしての描き方になっているし、やっぱり「今まさに続いている物語」でもあるし、視点がぜんぜん違いますよね。

ショービズ界の光と影、なんて簡単にまとめてしまえそうなことだけど、でもその光を真の意味で浴び、その影を自分の足元に見ている人には、そんな紋切り型の言葉ですまされるようなものでは当然ないわけで、その虚飾ど真ん中の姿のままのエルトンが、グループセラピーで語り始めるところから映画が始まり、語るにつれてだんだんとその虚飾がひとつひとつ抜け落ちていく…という構成。

エルトン本人は完成した映画を見て、ドラッグ依存症やアルコール依存症に陥ったシーンよりも、家族のシーンを見ている方がつらかったと言ったようですが、確かにあの両親との場面キツかった。子ども時代よりも、長じてなお受け入れられないと思い知らされる、あの再婚した父親の家で自分のLPにサインするときに「父さんへ」と書くことすら許されない、母親に自分のセクシャリティを電話越しに告白したときの「愛されない人生を選んだと思え」という言葉。

鏡の前で笑顔をつくってみせるシーンて、なんであんな切ないんでしょうね。「アイ、トーニャ」のマーゴット・ロビーの壮絶なやつとか、あと今予告編でバンバンかかってるホアキン・フェニックスの「ジョーカー」とかにもあるけど。

しかしそんな中で、ずっとソングライティングでタッグを組んできたバーニー・トーピンとの出会い、その描かれ方がなんつーかもう、爆発するわ!って感じでした。エルトンもバーニーも存命で、かつこの映画の製作総指揮がエルトン本人で、ってことを考えるとですよ、本人が語ることが真実とは限らないということを差っ引いても、エルトン本人がバーニーとの出会いとその絆(いやもう絆って言っちゃいますよこれは)をどれだけ代えがたいものだと思ってるかってのがもう、ダダ洩れてびしゃびしゃじゃないですか。あの二人が最初に出会って、挨拶して、ぎこちなく好きな音楽の話をして…ってところ、語りつくせなくて夜を明かして始発で帰るあの光景。あの日のことをふたりともずっと忘れないんじゃないかって思う。

そのあとにくる「ユア・ソング」ね!!あそこでさ、バーニーが歌詞を書いた紙を受けとりながら、エルトンが「卵がついてる」って言うの、ああいうのってなんか、本当にそうだったんだろうなって思わせるディティールで、それを居間のピアノで即興で作り上げていく、そこで歌われる「君の歌」はエルトンとバーニーがお互いにあてたものだってわかるあの演出…!この曲聴いて、And you can tell everybody this is your song(これが君の歌だってみんなに言っていいんだ)のところでこんなにぎゅんぎゅんきたことないわ!

こうした音楽ものの映画において、後世の私たちには「それが何をもたらすのかを知っている」楽曲の誕生を描くのってまさにその映画のキモと言ってもいいですが、この映画もまさにその一瞬のきらめきの描き方がこっちのハートをわし掴みですよっていう。

誰が聞いても名曲だとわかる、口ずさまないではいられない飛び切りの楽曲の誕生をきっかけにショービズ界を駆け上がっていくんだけど、あの「トルバドール」での一夜の描き方もすごかった。ああいう瞬間ってあるんですよね。自分があの場のすべてをコントロールし、全能で、すべてがパズルピースのようにはまって、次の扉が開く夜が。その階段をのぼったあとは、もうもといた場所には引き返せない夜。その興奮の描き方もよかったなー。あのストップモーション

歌詞がエルトン本人の人生をなぞっていく見せ方、これでもか!と繰り出される名曲の数々、派手なショーマンシップさながらの見ごたえのある場面がたくさんあったし、これホント舞台でも見てみたくなるなあ。そういう演出ですよね。しかし、楽譜の初見どころか、聴いただけで音を再現できる力、歌詞先でどんどんメロを生み出しちゃうエルトン・ジョン…こんなことを言うのもあれですけどマジもんの天才やん…というエピソードばかりでしたね。

御本人のお墨付きでエルトンを演じたタロンくん、いやもう歌がうまいの知ってたけど、もはやうまいだけじゃないよ!っていう説得力。すばらしかったね。バーニーを演じたジェイミー・ベルの繊細そうな佇まいもよかったなー。マジでこのふたりのシーン愛しさが溢れすぎてた。ジョン・リード役のリチャード・マッデン、ギャー!顔がいい!ひどいやつ!でも顔がいい!と感情がいったりきたりしましたけど(私の)、でもこれはエルトンから見たジョンであって、なんつーかこの極めて激しいキャラ立ちはそれだけジョンとエルトンの関係の一筋縄ではいかなさを語っているような気がしました。

感想書いているうちに「もう一回見たい…」欲がむくむくと沸いてきてるんですけど、やっぱり音楽ものの映画なのでできるだけ音響のいいスクリーンで見たいな…!という気がしております。気になっている方、ぜひ映画館で!