「近江源氏先陣館 盛綱陣屋/蝙蝠の安さん」

近江源氏先陣館 盛綱陣屋」。白鸚さんなんと28年ぶりの佐々木盛綱だそう。吉右衛門さんはわりと手掛けられている印象があるんですけど。あと今年の初めに仁左衛門さんの盛綱も拝見しましたっけね。

これこの演目の感想のたびに書いてる気がしないでもないんですが、私は子役の出てくる芝居が苦手なんですけど、盛綱陣屋は見るたびにそのことを忘れさせるつーか、いや最初はやっぱり苦手だなと思うんだけど、後半につれそのことを忘れさせる場の力がありますね。盛綱の「相違ない、相違ござらん」「偽首の計略成った、対面ゆるす」で舞台の上も客席もどっと息を吐くあの瞬間のカタルシス、何回見ても劇的でおもしろい。

小四郎をやっていたのが松本幸一郎くんというお名前だそうで、このお名前での初舞台らしいんだけど、立派だったなあ~~!これからが楽しみになる役者ぶりでした。

「蝙蝠の安さん」。かの名作、チャップリンの「街の灯」を歌舞伎化した作品を、幸四郎さんが88年ぶりに上演。宣伝ビジュアルも完全に和のチャップリン幸四郎さんの愛嬌あるしぐさがよく似合ってました。

もとが「街の灯」なんだから、そりゃもう物語はいいに決まってるってなもんですが、しかしただ物語の良さをみせるだけじゃない、楽しく、ペーソスのあふれる舞台に仕上がっていて、こういうときの幸四郎さんの信頼の裏切らなさよ。

花売り娘と出会って、その娘が自分を裕福な旦那だと勘違いしてしまうときの可笑しさ、酔っぱらった新兵衛との息の合ったやりとり、そしてあのラストまで、笑って笑って、最後にはぐっと胸に熱いものがこみあげてきてって、もう世話物の王道じゃないですかって感じでしたよね。

あの花道から新兵衛の乗る船がやってきて、高くなった橋げたのセットの下をくぐり、その橋げたのセットが下りてきてお花との出会いの場面になり、また安さんがねぐらに帰るところで昇っていくセットを縄ばしごで降りてくる安さん…という一連の舞台転換が見事すぎて唸りました。転換で客を待たせないというだけじゃなくて奥行きと高さをいっぺんに出現させて、しかも客から見づらくなるシーンがない。素晴らしいですね。

ラストシーンのお花と安さんの場面、あれほんと匙加減ひとつ間違うと難しい(お花が薄情に見えてもだめだし、安さんが恩を売ってるようにみえてもだめ)んだけど、あの場面での幸四郎さんの佇まいがほんっとに絶妙で、お花の目が治ったうれしさ、でも自分はここにいられず、そして自分がしたことを語ることもない哀愁が舞台の上に満ちていて、だからこそお花の手を取った瞬間の表情と、それを見守る安さんに胸がいっぱいになってしまうんだよなあ。あそこはほんと幸四郎さんと、そしてお花をつとめた新悟ちゃんの品の良さが出た場面だったなと思う。

あと猿弥さんと幸四郎さんの爆笑コンビっぷりな!もう、あの橋の下でのやりとり、どうということはない「魚が、魚が獲れた」でひーひー言うほど笑ってしまった私ですよ。酔いがさめたときの旦那っぷりとのギャップがまたおかしい。ほんといいコンビですよね!