30年の30本

はじめに

Twitterで年末になると今年のベスト3、みたいなお題をよく見かけますが、その中に「2010年代のベスト10」をやってる人がいて(映画だったけど)、2010年代っていうDECADEくくりでベスト10やるの面白いかもな、どうせなら90年代、00年代、10年代でやってみようかなという思いつきでスタートしました。最初は今までの自分の感想遡って読もうかと思ったんですけど多すぎて無理だった(計画性ない)。特に本数の増えた2003年頃からは基本的にその年のベストで選んだやつから選抜しました。順位はつけないでいこうかとも思ったんですが、こういうの順位つけたほうが面白いよねと思ってがんばってつけてみました。とはいえ1~3位ぐらいはわりと確定的ですが、それ以外は今の気分という感じですね。

あと、私が芝居を観始めたのは80年代の終わりなので、それはどうしようか…と思ったんですけど、この際1988年の第三舞台「天使は瞳を閉じて」と、1989年の夢の遊眠社「贋作・桜の森の満開の下」は殿堂入りということで外しました!いやこの2本はオールタイムベストやっても絶対入っちゃう2本だからさ!なので今回は純粋に10年縛りということで、ではいってみよっ!

1990年代ベスト10

  1. 髑髏城の七人(1997年)
  2. 朝日のような夕日をつれて‘91(1991年)
  3. 彦馬がゆく(1993年)
  4. 夜明けの花火(1990年)
  5. 赤鬼(1996年)
  6. じゃばら(1997年)
  7. 12人のおかしな大阪人(1995年)
  8. KNIFE(1995年)
  9. 休むに似たり(1998年)
  10. 直撃!ドラゴンロック2(1999年)

10位からいきましょうか。新感線おポンチの最高傑作ですね。すべてが奇跡。9位は自転車キンクリートのゴールデンコンビ、飯島早苗鈴木裕美の二人が手がけた中でも印象深い作品。佐藤二朗さんはこの作品でTVプロデューサーの目に留まったんじゃなかったかな。8位は惑星ピスタチオの作品の中でも最も好き、今でも台詞を諳んじるくらい好きな作品です。戯曲の構造が完ぺき。

7位はプロデュース公演のはしりといってもいいですが、文字通り関西でぶいぶい言わしていた劇団の売れっ子を集め、かつ脚本も演出も美しくまとまるという。このあと第2弾、第3弾も作られましたよね。6位は遊気舎の伝説的な作品の再演で、文字通りそのチラシの煽り文句に引っ張られて観に行きました。後藤ひろひと大王の過去作をパルコプロデュースでリメイクしたのが沢山ありますが、じゃばらを手掛けてほしいような、そっとしておいてほしいような複雑な気持ちでしたね、当時。5位は今はなきパルコのスペースパート3で観た思い出が。遊眠社解散後、NODAMAPに対してこじらせ気味だった私ですが(そうなの?)、このNODAMAP番外として公演された赤鬼で「こんなの作られたらもう降参するしかないっす」となったもんです。

4位はCカンパニープロデュースの作品で、往年のつか戦士そろい踏みだったんですよね。今考えるとこれを近鉄小劇場で観られてるの夢のようだな。これベスト1にあげてもいいくらい好きな作品です。4位になってるのはその後の観劇人生への影響を考えると上位3作品に一歩劣るかなと思ったからなんですが、しかし作品としては今でもラストシーンがはっきりと眼前に浮かび上がるくらい、思い出深いですね。3位は東京サンシャインボーイズの公演で、今でも私の三谷幸喜ワークスベスト1です。この作品がなかったら私はたぶん三谷さんにここまで思い入れてないんじゃないでしょうか。戯曲の構造、歴史上の人物に対する切り口、歴史そのものに対する深い愛情、どれもがすばらしかった。あの大崩しは生涯忘れられないラストシーンのひとつ。

2位はいわずもがな、第三舞台の名を知らしめた作品ですよね。多分私の人生において最もチケットの取れない演劇公演で、それを勝ち抜き、実際に東京まで出かけてこの伝説の場に立ち会えたこと、立ち会った伝説が伝説以上であったこと、私の観劇における「かっこよさ」の結晶のような舞台であったことなど、これ以上の「体験」を超えるものはないんじゃないかと思うほどです。

そして1位は劇団新感線の文字通り金字塔と言っていいんじゃないでしょうか。ひとはだれでも最初に見た髑髏城を親と思う現象があるらしいですが、だとすると私にとって不動の親ですね、1997年が。こののち生み出される新しい「髑髏城」の基本形はほぼここから出発しているといってよく、かつ劇団員の力量、スタッフワーク、それらがいのうえさんの構想に追いついてきた時代でもありました。紛うことなき傑作中の傑作ですし、この作品が押し開いた扉はあまりにも大きかったと思います。

2000年代ベスト10

  1. 夏祭浪花鑑(2002年)
  2. 野田版・研辰の討たれ(2001年)
  3. 阿修羅城の瞳(2000年)
  4. タンゴ、冬の終わりに(2006年)
  5. 消失(2005年)
  6. 農業少女(2000年)
  7. オケピ!(2000年)
  8. 籠釣瓶花街酔醒(2005年)
  9. ハムレット(2004年)
  10. 五右衛門ロック(2008年)

年代が進むほどベスト10選ぶの難しいですね。10位にまたも新感線。新宿コマは!こう使う!と言わんばかりの演出見事でした。見終わった後の「あ~楽しかったー!」という満足度がすごい。9位は子どものためのシェイクスピアカンパニーが手がけた「ハムレット」で、この戯曲を初めて芯でとらえられたような気がしたこと、ハムレットのみならず毎回すばらしいシェイクスピアアレンジを見せて下さることに対しても感謝しております。8位は歌舞伎の演目ですが、勘三郎さん襲名のときの、玉三郎さん、仁左衛門さんと一座されたときのものです。深い心理描写、至高の芸、文字通り超一級でした。

7位と6位はいずれも2000年の上演で、2000年はこのほかにキレイもあった(キレイを入れていないのは私はキレイを近鉄小劇場でやった中継で観たからです)んですよね。いずれもその後再演されてますし、オケピは三谷さんが岸田戯曲賞もお獲りになりました。そしてNODAMAPはやっぱり番外が好きな私。5位は東京公演は2004年だと思うんですが、大阪は2005年の上演だったんですね。全然この作品に合ってない、しかもむちゃくちゃ視界がよくない劇場だったことをものともせず、作品でぶん殴られた記憶。

4位は蜷川さんの手がけられた作品で一番好きなもの。清水邦夫蜷川幸雄のゴールデンコンビのエッセンスが凝縮されたような一本ではないでしょうか。3位はこれも体験としての色合いがどうしても濃くなってしまうところはあるものの、新感線が初期から口にしていた「新橋演舞場」という舞台が用意され、しかも市川染五郎(当時)というこれ以上ない適役を得て、まさに快進撃がここからはじまったというような作品でしたし、あの新橋演舞場をとりまく独特の熱気のようなもの、今自分たちは最高に面白いものをみている、と観客自身が自覚するような熱さがありました。そういう意味では2位も同じような「熱さ」をもった作品だったかも。野田さんもご自身で「歌舞伎と手を組むことで今まで開かなかった扉が開いた感覚があった」と仰っていた記憶がありますが、その感覚は客席にもありましたよね。「今まで見たことのないものを観ている!」というはっきりとした興奮があのときの客席にはありました。単に新しい、というだけじゃなく、作品としての完成度もそれを裏付けていた気がします。

さて、1位はもうこれ以外にないです。扇町公園での平成中村座。この作品がなかったら私は歌舞伎そのものに対してずっと及び腰であったろうと思いますし、この作品に出合っていなかったら、その後の観劇人生はかなり大きく変わったんじゃないかと思います。おそらく2000年代の10年間で、これほど手を変え品を変え飽くことなく見続けた演目はほかにありません。ニューヨークまで追いかけたんだものなあ~。劇場から駆け出していく団七の後ろ姿、永遠に忘れたくない私の一瞬です。

2010年代ベスト10

  1. わが星(2011年)
  2. ヒッキーソトニデテミターノ(2012年)
  3. 阿弖流為(2015年)
  4. エネミイ(2010年)
  5. 天日坊(2012年)
  6. ファインディング・ネバーランド(2017年)
  7. め組の喧嘩(2012年)
  8. クレシダ(2016年)
  9. 南部高速道路(2012年)
  10. トロンプ・ルイユ(2019年)

これは10年後に同じことをやったらかなり作品が入れ替わりそうな気もしつつ。10位にはいちばん近いベスト作品を入れました。9位はね、これ意外に思われそうな気もするんですが、自分でも不思議なくらい好きなんです。なんだろう、ちょっと寓話っぽい題材ってのもあるのかな。いろんな見立てが炸裂した演出も好みでした。8位はとにかく平幹二朗さんの仕事が圧巻でした。劇中の「演ずるということ」のシャンクの台詞、実はメモしてスマホに保存してあります。7位は浅草での平成中村座連続興行最後の月の最後の演目。千秋楽も拝見したんですけど、最初に中日当たりに見た時の衝撃がすごかった。あの一瞬江戸時代の女性の気持ちになりましたよ。そういえばクレシダの平幹さんも、め組の勘三郎さんも、これが最期の舞台になってしまったんだな…。

6位は唯一来日ミュージカルがランクインですね。これ、幕が開いてから観劇仲間の激賛につられてチケットを買い、観終わった後あまりの号泣ぶりに立てなくなるばかりか、ホテルに帰る道すがらずっとしゃくりあげるという、ほんとあれなんだったんでしょうか。思い余って翌日の千秋楽も当日券で観ちゃうっていう。日本版上演なくなったのほんと無念です。5位の天日坊は主演3人の魅力もさることながら、宮藤さんの脚色力のすごさに舌を巻いた作品でもありました。作品の土台がいいところに役者の魅力が倍掛けでかかってくるんだから面白くならないわけがない。

4位はこれ、今のようにブレイクされる前の高橋一生さんが主演されてたんですが、それが目当てだったわけではなく、おそらくは一生さんつながりで観に行かれた演出家の激賛に引っ張られて直前でチケットを買った舞台です。すごく好き。1回しか観ておらず、戯曲が手元にあるわけでもないのに、ラストシーンの主人公の台詞が頭から消えません。人間としてこうありたい、とおもう一瞬を掬ってみせるような作品でした。3位はね!もうこれ散々ブログとかで書き散らしたのでこれ以上書くことないだろ的なアレです。祭りでしたね。祭りでした。人生で一番リピートした作品です(もともとリピートする回数が少ないタイプってのもありますが)。何度見ても飽きなかったなあ~。

2位と1位は実はどっちにするか迷いました。ちょっと甲乙つけがたい。個人的にこの10年でもっとも刺激を受けた新しい出会いは岩井秀人さんなのではないかと思っていて、その決定打がこのヒッキーソトニデテミターノでした。当日券で、日帰りで観に行ったんですよね名古屋から。あの胸の中にひたひたと熱いものを抱えたまま劇場をあとにする感じ、なんどもそれを反芻する感じ、久しく体感してなかったなと。1位は、これ、実は東日本大震災のすぐあとに観た作品で、そのことはかなりこの順位に影響している気がします。報道でいろんなことが明らかになってくるにつれ、おそらくどれほど離れた土地にいても、自分の足元に暗い穴を感じなかったひとはいないのではないか、という時期でした。大きな時間軸と小さな時間軸を同時に手のひらに載せる、そこには詩が現れると私の好きな劇作家が言っていますが、まさにその通りの作品でしたし、あの胸をひき絞られるような切ない一瞬や幕切れの鮮やかさは、あのときの私を暗い穴から引っ張ってくれました。あれからずっと、アポロチョコを見ると切ない。そんな気持ちにさせる一本でした。

おわりに

さて!駆け足でしたがざっと30年の30本を選んでみましたがいかがでしょうか。90年代の10本はもうかなり不動、という感じのある一方、2010年代の10本はなかなか決まらずだったので、時間が評価を決めていく部分もあるのかなと思ったり。30年間の総観劇本数も出してみようかとおもったんですけど、結局面倒が勝ってやってない!すいません!たぶんですけど、平均して10年で500~600本ぐらいにはなると思うので、だいたい1500?1600?ぐらいからの選出だと思って頂ければという感じでしょうか。

いやほんと、こうしてみると長いこと劇場に通い続けてるんだなって改めて実感します。こんなに延々と劇場通いをするようになるとは、たぶんそれこそ90年代の私は思っていなかったかも。観る作品の傾向もその時々で変わりつつありますが、ずっと変わらないのはやっぱり劇場が好きってことですね。劇場に出かけて、実際にそこで生まれて、そして舞台が終わればすべてが消えていく演劇というもののいさぎよさ、その美しさがずっと好きです。できればこの先の30年も、物理的にも社会的にも生き残って、劇場に通えるおばあさんになっていたいです。長々と自分語りにお付き合いくださり、どうもありがとうございました!2020年代もどうぞよろしく!