「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」

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ライアン・ジョンソン監督・脚本。翻訳ミステリファンには嬉しい、かなり王道のミステリ映画でした。フーダニットではないんですけど、そのぶん脚本にひねりが効いていてよかった。映画で「殺人ミステリ」ってどうしてもサスペンスかアクションの方に寄りがちなところがあると思うんですけど、大富豪の死、自殺か他殺か、外部からの侵入が限定された屋敷、因業因縁渦巻く親族関係…ときて、そこに名探偵投入ですから、楽しくならないわけがなかった。

というように本当に「ミステリ」なので、これからご覧になる方は先の展開を知らない方が吉です!

謎解きとしてはかなりフェアで、最初の事件の晩の説明の時にちゃんと犬の鳴き声の説明もしているし、「誰か」でびっくりさせる構図ではないんですよね。ストーリーテリングの大きな前提として、「マルタがウソがつけない特異体質」というリアリティラインぎりぎりの設定を放り込んでいるんですけど、ここに軸足を置くのがまずこの物語を楽しむ第一歩って感じです(ミステリ読みすぎるとそこも疑いたくなっちゃうからね)。

ひとつ気になったのは「あの方法で薬剤の入れ替え…いける?」ってとこかな…注射器が2本以上ないと無理では…そして使った注射器はどうしたのさ…(こまけえ!)

「現代の富豪」としてベストセラー作家を据えるというアイデアもいいし、その子供及び孫たちの自分たちは『持てる者』だという根拠なき自信を気持ちよくライアン・ジョンソン監督が打ち砕いていくっていう。小道具の現代的なアップデートもはまっていて、探偵が絶妙にオフビートな立ち位置でいるのも楽しめた要因だったな(ダニエル・クレイグめちゃ楽しそうだった)。あと、ランサム役がクリス・エヴァンスで、言うまでもなくキャプテン・アメリカだった人なわけなんですけど、真逆の役柄でありつつ一瞬「この人信用できるのでは…」みたいなポジションに置かれるのがむちゃくちゃ奏功してましたね。その効果をも楽しんじゃうようなクリエヴァさんステキ。

「おまえによくしてやったのに」という彼らの根拠なき上から目線(でも葬儀には呼ばない底の浅さ)、それが逆転した時の「飼い犬に手を噛まれた」と言わんばかりの豹変ぶり、父祖代々と言いながら80年前にパキスタン人から買った屋敷だろと切り返されるとこも痛快でした。あの最後の構図よかった。私の家、私のルール、私のコーヒー。