「キレイ」

なんと4演目の「キレイ」!初演は2000年だったっていうんだからそりゃ遠い目にもなりますね。松尾スズキさんがシアターコクーンの芸術監督になられ、まずこの「キレイ」をひっさげての御登場でございます。

この作品を見るたびに楽曲と歌詞の面白さ、クオリティをエンタメとして堪能する部分と、ケガレとミソギが最後に交錯する、あの円環のような劇構造にもってかれるところは毎回同じなんですが、今回はそれに加えて、これは「何かを捨てて何かを得る」ひとたちの話なんだなっていうのがすとんと胸にはいってきた感じでした。ケガレだけじゃなくて、ハリコナもそう、ジュッテンもそう。何かを選ぶということは何かを捨てるってことなんだ。「僕らは片隅に転がる人形のように自分の人生を捨てながら生きている」。「キレイ」を見ててこの台詞を思い出したことなかったのに、今回はどの登場人物を見てもそれを感じた。

ケガレに生田さんというしっかり歌えるキャストがはいったことと、これ意外なんですけど、生田さんのケガレの佇まいがすごく初演を彷彿とさせたんですよね。だから原点回帰な部分もありつつ、各々のキャストのパワーが上がってむちゃくちゃ濃密なものができあがってた気がします。印象に残ったキャストあげるとキリがないんですけど、見ててまずうおっと思ったのが皆川さんのカネコキネコと鈴木杏ちゃんのカスミお嬢さま。皆川さん、もう完ぺきに仕上げてるというか、ぜんぜん隙がない。細かい台詞のニュアンスもぜんぜんとりこぼさない。「子だくさんが好きさ」は曲もかっこいいし詞も最高で大好きなナンバーなんだけど、「日が暮れる」でイントロが鳴るところ、「それはそれ、これはこれ、それはひとまずさておいて、そんな匙加減が必要さ。強さだよ、それは」とかがむーったくたカッコイイ。鈴木杏ちゃんのカスミさん、もともとの才能に場数と努力を掛け合わせるとこうなるのかあ…とその力量にひれ伏すばかり。カスミさんはむちゃくちゃいい役だけど(個人的に一番いいセリフをもらっていると思う)、それを倍掛けで活かしてくる。「ここにいないあなたが好き」でのキレッキレのまなざし最高でした。「海老痛」もよかったなー。

前回の少年ハリコナから青年ハリコナに成長した小池徹平くん、完全に歌って踊れてかつ芝居の幅がぎゅいんぎゅいん広がった人になって帰ってきた感あった。青年ハリコナって何気に難しい役のような気がするけど、この解釈正解だよなあ…というシーンがいくつもありましたね。「宇宙は見えるところまでしかない」のショーアップぶり大好き。

初舞台の神木隆之介くん、よかった、よかったし歌うまいし、あの役って表面をつるっとなでるだけみたいなことをすると途端にいやったらしくなると思うけど、ちゃんと自分を解放して舞台に立っててさすがだなと思いました。ジュッテンが岩井さんで嬉しかった、私は快哉を叫びましたよ。岩井さんのジュッテン、絶妙なラインでこの世界に染まりきってないというか、ジュッテンだけ違うものが見えてる感があったのが印象的。神木くんのハリコナといいコンビだったなー。

猫背さんやヨタロウさんは4演ともに同役で、そういうの逆に自分ならではの解釈みたいなのが上乗せされがちだと思うんですけど、お二人とも劇世界に完全に寄り添った芝居を貫かれてて、それもすごいなと思ったし、あの細かいニュアンスの再現つーか(桃はねえ!お母さんの食べ物!名セリフですよね)プロの仕事だなあ…と感動いたしましたです。

でもって阿部サダヲのマジシャンね。彼は初演再演がハリコナ(少年)、三演目でダイズ丸、で今回マジシャンなんだけど、わたし三演目の感想のときに「この物語がダイズ丸を中心にしたものに見える」って書いてるんですよ。でもって今回「マジシャンがこの物語の中心に思える」って言っちゃう。言っちゃいます。どれだけ目玉の姿でちょけてても、「こうするしかないのか」のひと言で物語を自分の方に一気に引き寄せるあの力、なんなんでしょうね。化け物か?見るたびにビックリしてますけど、まだまだビックリし続けてますよ。

初演のときは最後のケガレの歌のとき、松尾さんがセンターに踊り出た(文字通り)んだよな、なんてことも懐かしく思い出し、それも松尾さんならではの含羞というやつだったろうと思うのだけど、20年経ってもはやその含羞は不要のものとなった、堂々たるミュージカルになってるなって思いましたし、ひとつのレパートリーとして末永く生き残ってもらいたい作品だなと改めて実感いたしました。