「FORTUNE」

脚本は「ハーパー・リーガン」「夜中に犬に起こった奇妙な事件」のサイモン・スティーヴンス、演出はショーン・ホームズ。なんとサイモン・スティーヴンスの新作を本国英国に先駆けて日本で上演!え!?すごいな!?主演は森田剛さんです。パルコ公式サイトにもあるとおり、「ファウスト」を現代ロンドンに置き換えた物語。だからタイトルも英語で「幸運」という意味の「FORTUNE」(ファウストラテン語の「幸運」)。

ファウスト博士ならぬフォーチュンは映画監督という設定なので、いろんな映画絡みの単語が飛び交いますが、パディ・コンシダインの名前が連呼されるのちょっとドキドキしちゃったし、パディの顔がここで思い浮かぶのわりと得した気持ちだなと思いました。フォーチュンの前に現れる若く、美しく、才能のあるプロデューサー。フォーチュンと同じくチャップリンを愛する彼女。ふたりの距離を縮めようとするフォーチュン、けれど彼女にきっぱりと拒絶されてしまう。フォーチュンはその夜、「秘密のサイト」を訪れて、そこに現れるルーシーという悪魔と契約を交わしてしまう。

個人的には二幕が圧倒的に面白くて好きでした。二幕のフォーチュン、しどころしかないといった感じで役者の力量でぐんぐんもっていくのが気持ちよすぎる。あの箱の中の刑事たちとのシーンのキマりにキマったあの構図、独房のなかでの覚束なさ、時間を示す砂、最後の演出の圧巻ぶり、いやー満足度高い。あの独房のなかでのフォーチュンの独白がすごくよかった。世界を語る彼に胸掴まれるものがあった。本当に剛つんはああいう台詞で得も言われぬ抒情をたちのぼらせるからすげえよ…。

ろくろくクレジットを見ないで行ったので、演出家…誰だっけ?と観ながら考えてたんですけど、あのぱっきりした装置や無機物な感触、あと「部屋」の見せ方とかが「これ向こうの人っぽいな」と思ってたらやっぱりそうだった。ああいう演出する人私の通ってきた日本人演出の芝居ではあんまり見ない。でもって、キャストもあんまり把握してなかったんだけど、んまーー田畑智子さんがすごいことすごいこと。もってく!板の上での球種が豊富で見ごたえある。そしてすべての姿勢がキマってる。かっこいい!吉岡里帆さんは立ち姿って点でちょっとスッキリしないところがあるのが気になった。声はよく通って聞き取りやすくてよかったです。菅原永二さんや平田敦子さん、根岸季衣さんや市川しんぺーさんはさすがの安定感。

タイトルロールの森田剛は圧巻の仕事ぶり。剛つんて、それこそ舞台の上で球種が多い方じゃないと思うんだけど、とにかくここぞという大事な一点でむちゃくちゃ届く。その距離がハンパない。それは「いろんな球を投げれる」よりも実は難しいことのように思います。