はなれても はなれても

5月末から6月にかけて配信・放送されたWOWOW製作のリモートドラマ「2020年 五月の恋」、みなさまもうご覧になりましたか。WOWOWに加入していなくても、youtubeで期間限定無料配信中なので、誰でも、どこでも見ることができます。1話15分×4話なので、通勤時間でも、お昼休みでも、家事の合間でも、寝る前のひとときでも、パッと見られる。ほんとうにおすすめなので、この先私がうだうだ書くことを読むよりもまずドラマをご覧になっていただきたい。

さて、この2~3か月あまり、通常のドラマの撮影はおろか、「出歩くことが制限」される中で、作り手の方々も試行錯誤のあともあらわ、というような感じでいろんな企画がありました。リモートドラマもいろんなタイプのものが作られましたね。好きな役者さんだったり好きな脚本家さんが絡むものも多かったので、なるほどこういうアイデアもあるのか!だったり、対話で作劇していくにあたってのリモートの難しさを実感したり、いろいろありましたが、個人的にはこのWOWOWの「2020年 五月の恋」がその白眉と言う感じでした。

ここから先はドラマをすでに見ているという前提で話を進めますが、距離の離れたふたりの会話劇をドラマにする、という設定から、その「対話」をまず「電話」にさせた岡田惠和さんの脚本がすばらしい。離れていても対面できる「zoom」をはじめとする新しい機能を活用しようとする動きが目立つ中、いや、そもそも離れた二人が会話するなら電話でしょう、という原点回帰。そうなんだよ、そもそも離れた二人のコミュニケーションて電話か手紙だったじゃないですか。

で、さらには4話中3話まで、2人は顔を合わせない。電話をどちらがかけるか、というアクションも混みで、最初の間違い、次のお返し、最後は駆け引き、と3パターン見せるのもさすが。そして満を持して第4話でようやく、ふたりがお互いの顔を見る。そこで出る「やっぱりおれが、世界で一番好きな顔だよ」。この一言をパンチラインにできるのも、「顔を見る」という行為を4話までさせないからこそなんですよ。さらに言えば「今でもきれいだ」とか「変わらない」とかじゃなくて、「俺が世界で一番好きな顔」これだよ!!!そこからやたらメロウにならず、どんどん面白思い出話に転がっていくのもすばらしい。はーすばらしい。

カメラはそれぞれの登場人物の部屋に固定されていて、2方向からの映像を切り替えることしかできない。でも、これがよかったんですねえ。zoomなどを使った配信をたくさん見ているとどこか疲弊しちゃう自分がいるんですが、それってたぶん、ずっと表情だけが映ってることの弊害なんじゃないかと思うんですよ。視界を固定されているというか。人間の視線って実のところむちゃくちゃ自由なので、その自由の薄さに息苦しくなるとでもいうか。

このドラマもカメラは固定なんだけど、ずっと引きの映像なんですよね。基本的に全身が収まる距離で撮られている。でもってね、これ途中でユキコを演じる吉田羊さんが思わず高ぶって涙してしまう…というシーンがあるんだけど、そこでカメラが寄らないんですよ、当たり前だけど!泣いてる女優の顔をとにかくアップで撮ることを「品がない」つってた大女優さんがいましたけど、ほんと寄る必要って1ミリもないな…っていうことを改めて思いました。

ユキコさんはいわゆるエッセンシャルワーカーで、対するモトオはリモートワークで家にこもりきり。対面で仕事をしなければならないプレッシャーを職場で分かち合うなか、独身のユキコさんが家族持ちで家庭内での感染をおそれる仲間から言われる「ユキコさん大丈夫だね、うらやましい」のひとことを丹念に解きほぐしていくところ、本当に涙が出ました。いやわたしの職場でも、実際そういった「接触機会の多い現場」にはまず独身が立たされるという選択は当然にあって、しかもそれって「正しい」ことなんよね。感染を拡大させないためにはさ。でもその正しさからこぼれるものって絶対あるじゃないですか。

エッセンシャルワーカーのユキコさんを「ほんと、戦士だよ」とたたえるモトオと「それはみんなでしょ」と返すユキコさんの会話も、岡田さんがほんとうに「今書くべきことを、今書くべき人に」書いた、という思いがあふれているなあと思いました。

この企画の発起人は吉田羊さんで、羊さんは「12人の優しい日本人を読む会」に参加したことがきっかけで2時間の演劇が成立するなら連続ドラマだっていけるのでは!?と企画を動かしはじめたそう。脚本の岡田さんも「あっという間に」ホンを書き終わったらしく、いろんなひとの「今やりたい」ことの泉に水路を繋いだからこそのスピード感だったんだなと。大泉さんの登板は吉田羊さんたっての希望らしく、①映像だけど舞台のテンションで芝居ができる②間や呼吸を読むのうまい③重くなり過ぎずチャーミング、という要件を叶えるのは大泉洋しかいない!と完全に落としにかかってますよね。いやでも、さすがの呼吸、さすがのテンポ、エモーショナルな部分もファニーな部分もどっちも味わわせてくれて、おふたりの芝居のうまさと相性の良さを改めて実感いたしました。

7月5日には4話までをまとめて1本にし、さらに未公開映像を含めた「特別版」が放送されるそうです。こういう企画が出るってことは好評だったってことなのかなー。うれしいですね。そちらも楽しみに拝見したいと思います!