「赤鬼」

当日券で拝見しました。14時開演の場合、10時から12時半までのあいだに整理番号配布、12時50分に当選番号発表(webで見られる)、13時から販売。キャンセル待ち番号の人は開演10分前に集合してキャンセルが出れば見られる、という販売形式。このご時世なので前日電話予約等よりも、当日確実に現場に来られるひと、かつ行列を作らせない形式…っていうことなのかな。正直めちゃくちゃラクなので今後もこの方式採用してほしい。整理番号もらったあとホテルで休んで、webで当選確認してから出かけられるってむちゃくちゃありがたい。

野田さん自身の演出による「赤鬼」は16年ぶりだそう。え?ホント?そんなに?ロンドン、タイ、韓国といろんなところで上演の話を聞いてたり他の人が手がけたものを見たりしていたせいか、そんなに久しぶりという感じがなかった。今回は野田さんが自らオーディションで選んだ「東京演劇道場」のメンバーが4チームに分かれて公演を行っています。私が拝見したのはCチーム。

四方囲みの舞台で、座席はちょうど椅子一つ分空くような形で設置。自由席でした。舞台と客席の間には透明のビニールカーテン。これ、最初に劇場に入った時は興を削がれるかなと思ったんですけど、開演してびっくり。思わず「え、消えた?」と思うほど目の前がクリア。対面の客席を見るとビニールに反射してるのがわかるのだけど、明かりが入ると目の前はまったくビニールの存在感がない。いやーおもしろい。これは感染防止としての役割もあるけど、なによりある種の劇的効果があるんですよ。これ蜷川さんが生きてたらこのビニールを使って遊びまくるんじゃないかと思いました。

今回の赤鬼はキャスト数としては日本版よりも圧倒的に多いタイバージョンを底本にしていて、それもどうしても見たかった理由のひとつだったんですが、なにしろキャストが多い!そして若い!ので、途中「オッケーいっかい落ち着こうか~!」と声をかけたくなるテンションの高まりに、いやこれビニールカーテンあってよかったなとちょっと我に返りました。キャスト全体に言えるんだけど、皆台詞として投げる球の球種がやっぱり限られてる。球種の少なさとテンションの高さって関係してると思ってて、球種が少ないからこそ芝居のアクセルとブレーキがもっぱら声の強弱に依るような部分があると思うんですよね。

しかし人数が多いからこそ見える風景も確実にあるし、というかこれで「島の人々」が自分の知らない言葉を喋り、赤鬼だけが理解できる言語を使って演じられたとしたら…まったく違った「赤鬼」の物語が見えてきたりするんだろうな。

そして何よりホンの強靭さ、それに唸りました。むちゃくちゃ強い。初演の1996年から構造をまったく変えていないのだけど、あの時代にも有効だったし、今なお有効だし、感染の二文字を誰もが頭に思い浮かべるこの時に、排除される「あの女」たちに今の私たちの現状を重ねてしまう。初演から24年の時を経ているからこそ、結局私たちはここからどこにもいけないのか、という暗澹とした、絶望にも似た思いがよぎる。しかしそれでも、赤鬼はやっぱり「向こう」を見せてくれる芝居で、だからこそずっと大好きだし、何度でも見たくなる作品なんだろうなと思いました。その向こうにあるのが何であっても。ひとが山に登るのは、見通せる向こうが欲しいからだ…。初演の時から大好きな台詞です。

スケジュールを見て、自分が見られるとしたらCチームだなと思い、顔ぶれを確認して、このメンバーだったらきっと川原田さんがミズカネをやるに違いない、と踏んでいたのですけど、あたりでしたね。いつも野田地図作品を見るたび、いい仕事なさってるなーと注目していたので、生き生きとミズカネを演じられるところを拝見できてうれしかったです。