「阿修羅城の瞳」 新感線

かつて鬼殺しとしておそれられた病葉出門。今は、「東海道四谷怪談」の戯作に取り組む鶴屋南北のもとで役者となっていたが、女泥棒、つばきに一目惚れしたことからふたたび鬼との戦いに巻き込まれていく。「阿修羅」とはなんなのか、「阿修羅」とは誰なのか。そして阿修羅ふたたび目覚めるとき、江戸の空に逆しまの城が聳え立つ・・・・・

いのうえ歌舞伎らしい、非常にダイナミックなお話でした。それは今までもあったことなんでしょうが、今回新橋演舞場と松竹座というもってこいのハコを得たことで、舞台装置から特効から演出から、「やりたかったことは全部やったぞ−−−!」的にもう盛りだくさんな内容で。そういえばラストの展開、構図が「贋作・櫻」にクリソツだったんだけど・・・(でも初演はこっちのが先)勧善懲悪のテイストはありながらも、「弥勒の救済とやらも楽しみなものだ」と言わせたり、「人の城もなくなる」等のちくりと刺すようなセリフも効いていて、その辺の毒が非常に私好み。「この町には人が増えすぎているとは思わんか」なんていう台詞がさらっと入ってるしなー。
しかし!ストーリーがどうだとか伏線がどうだとか言うのもナンセンスな気がしてきますね(笑)何はさておき「魅せる」「楽しませる」事に関して一級品というか。でもホント、今お客さんの心を沸騰させる事に関しては当代随一だと思うですよ、新感線。

それはやっぱりもうキャストの力もでかい。それもかなり(笑)もう言い尽くされていることですが染五郎さん、素晴らしすぎ。流石でございます。そしてご本人ももんのすごく楽しんでやってらっしゃるようにお見受けしましたが(笑)大阪のカーテンコールの時のはしゃぎっぷりがまたいとしい〜・・・。私が見た回で登場の時染五郎さんのお声が若干枯れ気味だったんですけど、出せば出すほどどんどん出てくる染五郎の声の不思議(笑)つばき役の富田靖子ちゃんはもう、個人的には贔屓の役者さんなのですが。東京の時声めちゃめちゃ枯れてたー。今回の富田さん、いまいち魅力出し切ってないなぁと思うところもあり、更に阿修羅になってからはもう一声ドスが欲しかったというのもあるのですが、最後のセリフ、この声潰してでも言い切ってやると言わんばかりの迫力に、もう、オッケー!と思いました。そういう一瞬を一個でもくれたらオッケーなんすよ、ほんと。
古田@邪空は、大阪で見たとき、いつもの古田さんの爆発力というか求心力というか、もう古田以外目がいかない!という力がなりを潜めている感じがして、どうしたんだー!と思っていたんですけど、流石夢の舞台新橋では違いましたね。ゾクゾクしっぱなし。邪空は非常に重いキャラなんで古田さんってこういうのひょっとして苦手なのかなーとか邪推してしまいましたが、ええホント失礼しました、天才に苦手なし、ってことで。

江波杏子さんは常に声が乱れない堂々たる様が美惨にぴったりーーーー!さすが初演の時いのうえさんが「そこは江波杏子みたいに!」って演出してただけのことはある(笑)そして、あたし的には一番おいしすぎるんじゃないでしょうか先生、と思ったのが平田さん。なんだあの一幕ラストーーー!!!!!鳥肌たったっつーのマジで。加納さんはもう問答無用にずっぱまりで。あの急速に声のトーン変えるとことか卑怯ッスよね、卑怯なぐらい上手いッスよね。大阪で見たとき伊境屋が鬼に食われるシーンでなんと鬘がすっ飛んでしまうアクシデントがあったのですが、とっさに「伊境屋はずかし〜〜」のアドリブ入れていっぺんにお客を集中させるとこなんざ、さすが座長!って感じでした。そして伊境屋のいっけいさん・・・・ああいっけいさん・・・(愛)どうして祓刀斎あんなにおいしいんだ!!!大好きだ!ああ、大好きさ!!妙に衣装がセクスィ〜でそれもまた良し(笑)

あたしは基本的にお芝居の途中で拍手したりっていうのはあんまり好きじゃないんですよね。だけど、今回だったら一幕の最後、晴明が後ろの幕を袈裟懸けに切って出てくるシーンとかはもう、拍手せずにはいられないじゃないですか。おきまりで拍手したりするのはイヤだけど、本当に心が盛り上がって拍手したくなるところがたくさんある、そういうお芝居でした。

大阪の千秋楽で見て東京も楽間近を見たんですが、はっきり変えてきた、と感じたのは邪空の存在感。阿修羅との最後の対決よりも、阿修羅の血を飲んで人ではなく鬼でもなくなった邪空という存在の禍々しさと出門の対決にかなり焦点を絞ってきたなというか。(後半邪空の声にかかっていたくぐもったようなエコーは大阪ではなかった)あと、さすがに細かいギャグも増えてましたな(笑)鬼御門三人衆の「俺にはかわいい妻も子もいる!」(ちなみに妻は粟根さん)とか、パトラッシュをいじる染様とか(笑)大阪では口をパクパクさせていただけだったのに、東京に至っては途中でカクッと息絶え心マッサージまで施すシマツ(笑)

10500円という、これでこけたらもう新感線誰も見にこんで!というようなチケ代でありながらリピーター続出、おめでとうございます。私も自分が出したチケ代、一銭たりとも惜しいとは思っておりません。
「髑髏城の七人」を見たとき、これは凄い、新感線が「小劇場の人気劇団」を超える日が来たか?と書いたけど、本当にそうなりましたね。

思えば遠くに来たもんだ。
じゃないけど、これが「新感線が小劇場の人気劇団」の枠を飛び出すきっかけでしたね。新感線に、ホンモノの歌舞伎役者が。今じゃ「普通じゃん」と捉えられることでも、たった4年前のこの時点では普通の事じゃなかった。それに勇気を持って飛び込んだ染五郎さんの心意気にまず拍手を。ここから生まれた名作傑作の数々に触れられたのも、その勇気のおかげですもんね。
そして新感線念願の新橋演舞場初進出でした。いやはや、やはり、思えば遠くに来たもんだ。