「業業業」大川興業

まず、入院してらっしゃった加賀谷さんが復帰っていうことでそれが一番嬉しい。よかった。退院おめでとうございます。役者・ハウス加賀谷のファンなんで、ほんと。

ネタ的には非常にタイムリーと言うか。DNAの解明が進んでいて、遺伝子診断なんていうのがもう夢の話じゃなくなっている(アメリカでは実際にやってますよね)からこそ、じゃあこの先遺伝子差別なんていうのが出て来るんではないかと。映画の「ガタカ」で描かれていたような世界が来るんじゃないかというお話。

江頭さんが、双子の兄が大量殺人者で、それによって差別を受けている男をやっていたのですが、本当うまいんですよ。一卵性だから遺伝子も同じだろう、お前だっていつ殺人を犯すかわからない、そんな人間は出て行け!とか言われるの。今の、オウム信者のような扱いをされるわけです。あなたのお兄さんに自分の親族を殺された、だから自分が生きていくための金を貸せと言ってつきまとうストーカーまがいの男とか出てくる。

話の中に、江頭さんが命の電話のカウンセリングをしていて知り合った下丸子という人が出て来るんだけど、彼は小さい頃遺伝子診断を受けて癌になる可能性が80パーセントだと。しかも若いうちに発病するといわれて、今日死ぬか、明日には発病するんじゃないか怯えるうちに引きこもってしまって人と上手くつきあえなくなってしまう。でこの役を大川総裁がやってたんだけど、うまい!!!物凄くちっさーーい声で喋るのね。ホントささやき声って感じで。でも客席が静かだったらささやき声でもさ、聞こえるのよ。つか、相手役である江頭さんでも聞き取れないぐらいの声で喋ってるんで、「聞こえない」ってことがもう一個のキャラクターなんだけど。それでこの彼がね、江頭さんに励まされて、自分を変える為に昔から好きだった女の子に電話で告白するのさ。この告白シーンが素晴らしくて素晴らしくて、あたしはもう泣きましたね。総裁上手すぎる、マジで。今思い出しても泣けてくるぐらいです。

ラストも非常にメッセージ性の強い終わり方で、まあそれはちょっと意外だったんですが、しかし相変わらずみんな語らないけど世間に必ずいる、少しいきすぎた人の可笑しさと哀しさをやらせると大川の右に出る者はいないような気がしますが。つか、こういうテーマこそを鴻上さんに取り上げてもらいたいんだけどね。

残念なのは、大川って脱ぐだろ!笑かしてくれるんだろ!という観点でしか見に来ない人が多すぎるような気がする。もちろん、それも持ち味のひとつでそれが悪いわけじゃないけど、少なくとももっともっと芝居好きが見に来てもいい。ほんとうまいんだからマジで。役者の力量って事で言えばその辺の劇団より数倍上。加賀谷さんなんか、天才かと思うぐらいッス。

加賀谷さんは結局この芝居を最後に休団してしまい、それ以来舞台では拝見しておりません。ああ、本当にあんな天才役者・・・惜しい。私は心の底の底の方で復帰をひたすらお祈りしています。
それにしても、この総裁のやった下丸子くんの話は良かったな〜・・・。あの儚い声での告白は思い出すだけで涙が出てくるほどです。