「ジンジャーブレッド・レディはなぜアル中になったのか」   M.O.P

私は基本的に「女優」っつー単語は好きじゃない。大抵は「役者」と私は呼んでいる。役者という言葉の響きも好きだし、舞台にとても合う言葉のような気がするので。
しかしこの人は女優と呼びたい。そう思わせる。役者なんて言葉では納得できない力を感じる。
キムラ緑子さんは本物だった。
それも、圧倒的に、本物だった。

この公演以後、次回の公演まで1年半も空いてしまうMOP。楽日のカーテンコールでは「マキノさんの都合で」ということだったけど、戻ってくるとわかっているとはいえさみしいものはさみしい。でも、それを吹っ飛ばしてくれるほど重量感のある、いい芝居でした。マキノさんが大好きなニールサイモンの「ジンジャーブレッド・レディ」に繋がるお話で、エヴィ・ミエラがアル中の更生施設に入るまでを丁寧に丁寧に作っておられました。

チラシやパンフでマキノさんが書いていらっしゃるとおり、いわゆる「赤毛もの」に真っ向から挑戦しておられて、特に奥田さんとか酒井さんとか似合ってなさ過ぎで超ウケたんですけど(笑)、まあその辺の「日本人が赤毛ものやる可笑しさ」みたいなものも含みで見て下さいね、ってことなんだろうなぁと思ったり。

木下さんも、酒井さんも奥田さんも、小市さんも林さんもそれほど舞台で大きく絡んでくるわけではなくて、もうとにかくドリさん演じるところのエヴィの独壇場、といった感じでした。最初に黒のドレスで出てきて歌ったときちょっと声が掠れめだったので「大丈夫かなぁ」と思ったんだけど、もう後半になるに従ってどんどん出る。すごいよなーーこういうのがプロだよなーー!と思って惚れました。印象的なシーン沢山あったなぁ。2幕(っていうのかしら?)でエヴィが着ている衣装すげー可愛かったなぁ。サングラスも。ルウはほんとやな奴で、思わず扉を開けて戻ってきたとき「あんたは戻ってこなくていいんだよ!」と突っ込みそうになった。でも自分が盗作してしまったと泣きつくシーン、そしてそこでドリさんの歌う歌は本当に忘れがたい。

頑張っても頑張っても物事は「下りの急行列車」で、どうしてもアルコールに逃げてしまうエヴィが切なくて切なくて。詐欺にあったと知ってジンを飲み干す彼女、どうしようもない男に声の限りに縋ってしまう彼女。最後に作者役の小市さんと夢の中で穏やかに話ながら、ポリーだけは自分のようになって欲しくないと泣く彼女。これだけは覚えていてくれと作者が言う「君に必要なのはこの窓をこじ開け、君がそれをどんなに畏れようとも君を明るい世界に連れだしてくれる人だ。ポリーだよ、君の娘だ。」このセリフにはもう、涙が止まらなかったです。最後にかかってくるポリーからの電話。繋がらないんだろうな、とわかっていながらそれでも繋がってくれと祈らずにはいられませんでした。ポリーの九つの誕生日にあげたもの、なんだっけ・・・?と呟いている彼女の背中に、思わずジンジャーブレッドの家だよ!と、あなたがあげたものはジンジャーブレッドの家だったんだよと、それをまだポリーは大事に持ってるんだよと、声をかけてあげたくてたまらなかったです。

途中から、これはキムラ緑子さんだという意識は完全に私の中からはなくなって、そこにいるのは酔いどれの歌姫エヴィ・ミエラでしかありませんでした。もうなんといっていいのやら。圧巻です。歌も芝居も情熱も。すべてが、「女優」という呼び名にふさわしいものでした。
キムラ緑子さん、凄すぎる。
あなたは本物の女優です。

関係ないんですが開演前に「作者」役の小市さんがロビーで客入れをやってらっしゃって、握手してもらったのがすっごく嬉しかった(笑)あの笑顔、間近で見ると、死にますよ!