「パードレ・ノーストロ」

  • パブリックシアター   N列40番
  • 作 ルイージ・レナーリ  演出 佐藤信

偉大な父を持った心弱い子供の話といって私が思い出すのは,吉野朔実さんの「カプートの別荘においで」。かの天才物理学者アインシュタインの次男にして,精神病院でその人生を終えたエドゥアルドが重要なモチーフになっているのですが,こういうテーマというのは創作者の想像力を喚起させる何かがあるのでしょうね。

アメリカの大富豪P・ケネディの長女にしてあのJ・F・ケネディの姉ローズマリー。偉大な革命家を父にもつアルド。実際には会うことのなかったこの二人,ともに偉大なる我らが父の影に押しつぶされてしまったこの二人のつかの間の出会いをこの作品は描いています。といってもそれは現実世界での出会いではなくて…ふたりがもう一つのドアを,つまりは天国のドアを開ける前のかりそめの出会いなんですよね。前半はわりと淡々と,父を愛していたのにその期待に応えられなかったふたりが「我らが父」像を語るのですが,だからこそ後半の父に対する葛藤がストレートにぶつけられるシーンは思わず息を呑んでしまう迫力でした。特にローズマリーの手術のシーンの美しさと哀しさは心に残っています。

最後にふたりが希望を語るくだりがあまりにもせつなくて,どうにも泣けてきて困りました。ラストの白い花と照明の美しさも素晴らしかったなあ。演じていた毬谷さんと白井さんのお二人は,ただもう拍手。毬谷さんを舞台で拝見したのは実は凄く久しぶりなんじゃないかと思うのですが,かっわいかったなあああ!!相変わらずの七色の声、堪能させていただきました。なんであんなにささやくように喋っているのにあんなにもクリアなんだろうか。すごいよね。白井さんはじつはちょっと関西風なイントネーションで終始喋られていたんですが,こちらもコミカルなテンションから終盤の激しい独白まで,その切り替えのうまさというか見事さというか…素晴らしかったです。扱っているテーマも私好みで役者も最高。もう言うことなし!!