「Tokyo Paris London SAKURA」  青い鳥

  • 近鉄小劇場  F列24番
  • 作 天衣織女  演出 芹川藍

新宿でホステスをしている”杉子”はある日、教会の前で倒れているところを病院に担ぎ込まれる。原因は「アルコール依存症」。しかもまだら型の記憶喪失にかかっており、彼女はなぜ自分が教会に行ったのか、何を求めて教会の坂を登ったのかまったく身に覚えがない。「ホステスがアル中なんて!とんでもない!」釈然としない杉子をよそに次々にやってくるヘンな見舞客やら自殺願望の母親やら落とし穴にはまった女の子やら。「何がなんだかわからないけれど、でもこの人たちのことはなんだかとってもよくわかる。だから、もう少しここにいることにしましょう・・・・」

ひとつひとつのシーンの完成された美しさ。熟練の役者による表現。舞台での自由度。そして作品の底辺に流れる、傷ついた人々の痛さ切なさ優しさ、その思い。
完璧、でしたね。言葉がないっす。

最初にこの公演があるのを知ったとき、行こうかどうしようか迷いました。青い鳥は大好きだったけれど、もう約8年ぶりぐらいになる「本公演」。しかも、一旦最後(まあ最後ではないんだけれど)になった「ゆでたまご」があまりしっくりこなかったというのもあって、今更青い鳥でもないかもな・・と思ってしまったから。だけど、久々に殆どのメンバーが顔を揃えるのだし、私の大好きな葛西佐紀さんが出るのだし、あまりお客が入らなくてもなんかヤダし、そう思って足を運びました。

でもそんな過去のノスタルジィだけで足を運んだ自分を恥じるような傑作でしたねえ・・・。28年やってきて、あの軽やかさ。同時に、今をきちんととらえ、かつ人の思いを十二分に表現してみせる役者・演出の手腕。脱帽ですよ本当。さっきも書いたけど一個一個のシーンが完璧なまでにキレイなのね。芹川藍さんの演出センスってすごいなぁと。抽象的といえば抽象的なシーンの連続ではあるんだけど、しかし表現したいことは(言葉に出していなくても)直球ストレートで客の心にずどんと来る。芝居の醍醐味だよなぁこれって・・・・。演劇にしかできない表現、ってやつを知り尽くしてる感じでした。

どのシーンも大好きなんだけど、なんといっても圧倒的だったのが中盤、杉子の母親の手紙のシーン。ベッドに差し込む青い光と、月の影。ゆっくりとシーツを直し、枕を叩き、布団をベッドに掛ける杉子。バックでは杉子の母親の手紙が淡々と・・・ただ淡々と読まれる。その手紙は至って普通の、母親から子供への手紙。何も特別なことは書かれていない。元気でいるかとか、従姉妹が今度結婚することになりましたとか、そんな内容の。だけど、そのなんでもなさが胸を締め付ける。ベッドを直しながら、杉子はゆっくりと布団に顔を埋めて声を出さずに泣く。月の青い光の中に杉子の揺れる肩だけが浮かび上がる。この間杉子の台詞は一切なし。でも心情はどんな雄弁な台詞より私の心を打ちました。涙が溢れて止まらなかったです。

ヘンテコな言葉を喋る戦士たちやら、落とし穴に落ちちゃったみっちゃんの話やら(これがまた恐ろしいほどいいシーンなのよ!泣けるのよ!)千草ママたちの登場シーンもダンスもみんな愛しい。なんといっても役者さんがみんなすごいよ!あたしの大好きな葛西佐紀さんは相変わらずテンション高く軽やかで、その変わってなさに殆ど驚異を覚えましたよ。天衣さんも伊沢さんも、芹川さんもほんと、マジで達者。みっちゃん役の子は新人さん(青い鳥においては、という意味ね)みたいですが、これがまたすさまじくうまい!!本当にうまい役者さんっていうのはちゃんといるんだわ、あたしが知らないだけで、と柄にもなく反省モードに入ってみたり。

久々に、ホンモノってヤツを見せてもらった感じでしたね。芝居の力ってこうだろ?っていうか。すごいよーーー青い鳥!次はいつ見れるのかしら?わからないけど、でもそんな遠い未来ではないことを祈りたいですね。

青い鳥は昔からすごくツボにはまるときとそうでないときの差が激しいんだけど、これはもうめちゃめちゃ好きな一本。再演かビデオ化してくれないものか。まあ、無理だろうけど(涙)