「マイ・ロックンロール・スター」

  • シアタードラマシティ  6列41番
  • 作・演出  長塚圭史

私が長塚さんの作品が好きだなぁ、と思うのはブラックな中に一瞬ウソみたいにカタルシスを感じる瞬間があるからだ、と以前書いたことがあるんだけど、今回の芝居はまさにそのカタルシスを思う存分堪能させてくれた作品でした。

個人的にはもう、この芝居は中山さんに尽きるだろうと思うんですけども。私は特にこういう設定に弱いというのもあるんでしょうが、長塚さん演じる父親が彼を「あいつ」としか呼ばなかった瞬間から私は中山さん演じる「太」に全面感情移入してしまいまして。だからもう、最後のあの瞬間だけを2時間待ち望んでいたと言っても過言ではない。そりゃカタルシスも感じるはずだっつーの。そういう意味では長塚さんの脚本にのせられた典型的な「いいお客さん」ってことだと思うんですが。

阿佐スパのいつもの作品と較べると、猫背さん&山内さんのラストや(あのセリフはちょっとズルイ)、父と子の最後のシーンなんかは、よりわかりやすく読める展開でもあるんだけど、私にはこれぐらいの匙加減がちょうど良いらしい(笑)。猫背さんと中山さんのギター弾くシーンとかすごく好き。そうそう、一番最初に何度も出てくる「(ペットが)鳴かないから死なせちゃった」のセリフが、最後の展開を暗示させるのもうまいなぁと思ったし・・・。それにしても最後の太の拍手はずるいよなぁ!「お父さんどうしていいかわからなかったよ」のセリフもすごく良かった。私は全然悲劇じゃないと思ったし、むしろこんなに綺麗なラストシーンはそうそうないとさえ感じました。

劇場の幅が広いのでなんか使いなれていないなぁという点と、あとこれは前にも思った事があるんだけど、長塚さんはいまいち転換の時の処理がこなれていない感があって、それはもうちょっと頑張って欲しいなぁと思いました。前半殆ど無いのに、終盤に2つ長い暗転が続いてしまって、流れが途切れそうになってしまった。音楽だけじゃなくてもうすこしなんかあった方がよかったかも。

不気味な婚約者をやった池田鉄洋さんはさすがの存在感でお見事。使われ方が少々もったいない気はしつつ、しかしインパクトは十分ありました。猫背さんもよかったし、山内さんは非常に良くダメ男を体現していたな、と。うーんしかしなんといっても中山さんに尽きるような気がするなぁ。セリフも殆ど無いし出番だって多い方じゃないけど、彼の哀しさみたいなものがガンガンに感じられて、だからこそ最後の拍手と、父親の下手なギターが泣けて泣けてしょうがなかった。

しかし父と子で父と子のこんなにも濃い話をやるとは、すごいですなぁ、長塚父子。

この作品、すごく好きでした。中山さんの太はよかったなあ。ラストシーンであそこまで泣いたってのも久しぶり。あまり芝居を観るとき特定のキャラに思い入れるって少ないんですが、これはめちゃめちゃ感情移入してましたね。