「今度は愛妻家」  showcase

  • 近鉄小劇場  D列3番
  • 作 中谷まゆみ  演出 板垣恭一

正直なところ、もういい加減いいんじゃない?と思っていたのです。成志さんのことを語るときに「うさんくさい」という言葉で全てを片づけてしまうことが。もちろん私はあの人にしか出せない独特の「胡散臭さ」を殆ど愛していると言っても過言ではないですが、それは私の好きな池田成志という役者の片方のベクトルなのであって、この人の魅力や力はそれだけではないだろう、と思っていたからです。だから、showcaseに成志さんが出られると聞いたとき、私がずっと見たかった「もう片方のベクトル」をきっと見せてくれるに違いないと期待に胸躍らせていたのです。

ネタばれは注意して見ないようにしていたし、極力前情報も遠ざけていたんですが、この展開は実は最初にわかっちゃってました。というかそれは成志さん、あなたのせいだ(笑)「真夜中の王国」に出演されたとき、あんなにもネタばれに気を配っていた(ように見えた)にも関わらず、「妻を失った男」と口を滑らせ(?)た瞬間「ああ、もしかして」と思ってしまったのだよな・・・(だって普通なら「別れた」とか言うでしょ)。で、セットを見て本棚にある写真立てを見、登場シーンで長野さんが白ずくめだった時点で「ああやっぱり」。でも、最初から予測がついていたおかげで、結末を知っている目でふたりを見てみるということが出来てかえって良かったかもしれません。

大切な人を喪うことはつらいことに決まっている。でも、この芝居がこんなにも胸に迫るのは、それだけが理由じゃないような気がする。ふたりで過ごしたなんでもない時間、なんでもない会話、毎日のくだらないやりとり。その「なんでもない幸せ」がすごく魅力的に描かれていること、そしてそれに気付かずにいたことへの後悔が、こんなにも胸を苦しくさせるのじゃないだろうか。後悔があればあるほど、その喪失感から立ち上がるのは難しい。だからこそ、あんなに愛していたのに、どうして、と繰り返していた男が、あんなに愛していたのに、それでも、と前を向くラストが、愛おしく感じられるのだと思うのです。

私が何より凄いと思ったのは、長野さんにも成志さんにも、2時間の間ほぼずっと、お互いを喪ってしまった悼みを奥底に秘めていることが感じられたことです。楽しいシーンも、笑えるシーンも、喧嘩のシーンもすべて。ふたりがただ揃ってお茶を飲むシーンがなぜあんなにも切なく、透明感のある美しいシーンになっていたのか、それはお互いがこの時間はもう永遠に取り戻すことは出来ないのだと思っているからこそ出せる雰囲気のように感じられました。クリスマスの夜、さくらが去ってから、ソファに座って空を見つめる成志さんの目の涙を見たとき、彼が耐えてきた喪失の重さまでもがひしひしと感じられて、泣けて泣けてしょうがありませんでした。

そうして私が期待したとおり、成志さんの「もう片方のベクトル」の力を思う存分堪能させて頂くことができ、非常に満足しております(笑)。個人的に好きなのは、写真を撮るシーン。ちょうど座席の角度的に撮っている成志さんの顔が真っ正面で・・・ああ、思わずあたしがポーズとりそうになったわよ(嘘)。特に終盤は「お持ち帰り成志」てんこもりとでも言いましょうか、切なさに涙を流しながらも成志さんの表情いちいちに「ああ今、時間を止めて!」とか思ってみたり。長野さんのキュートさにはホントもう脱帽。なんて可愛さなんだろうか。そしてなんてうまさなんだろうか!終盤に結構長い間無言でずっと舞台上にいるシーンがあるけど、まるで本当に俊介が見ている幻影に見えましたよ。なんつーか、表情とかが絶品なのな。横塚くん&真木よう子ちゃんの若いふたりも、個人的にはかなり好感。真木さんは声も良いしスタイルも良いし、ほんのちょっと優しい所をのぞかせる部分なんかもなかなか良かった。高橋長英さんも、なかなかにオカマキャラがはまっていて見事。役者さんみんなが好演で、本当によい舞台だったなぁ・・・。

ゴールデンコンビ炸裂。中谷&板垣はマジでおそろしいぐらいのハイ・クオリティを維持してますよねえ。これもDVDになったんですが、いやもう舞台で見たときは勿論DVDでも泣いた泣いた泣いた。showcaseシリーズでDVDBOXを出して欲しいなーとずっと思ってるんですが、どうですか、サードステージ様!