「人間合格」

こまつ座ってなんだかいつもラストの展開予想を裏切られるんですが・・・。決して安易に幸せになんかしないよね、登場人物を。笑いをまぶしてあるとはいえ、今回も最後の方にかなり痛烈なセリフがあるし、なんというか、骨のある芝居でございました。

デカダンスを絵に描いたような太宰ではなく、友情に「小さな宝石」を見つけていく太宰治の姿というのは新鮮で、でも決してあり得ない事にも思えず、立場が変わり時代が変わってもそれぞれの関係性は微塵もゆるがない彼らの姿は、観ているこちらが羨ましくなるほど。最後に太宰が激白する、時代を踏み越えていく庶民に対する怒りの言葉はなんとも胸にいたく、しかし「生きていくそのことこそが大事」とやんわり切り返す中北さんの言葉もじんわり沁みる。盟友佐藤が逃亡の途中、太宰に語る「文学の仕事」についての励ましもすごく良かった。

個人的には、大高さんは「語りの大高」と呼びたいほど、お話の中で「ちょっといい話」を語らせると、その不思議な吸引力は右に出る者はいないと思ってるんですが、今回も魯迅の「小さな宝石」の話をするところがまさに本領発揮で素晴らしい。おぼっちゃまでへなちょこな太宰の姿もキュートだったし、最後の激白はさすがの迫力で舞台を完全に支配していたし、ほんと無理に無理を重ねてでも見に行った甲斐があるというものです。すまけいさんの中北役はもう、言うことなし!!柔軟で逞しく、でも実直な東北人を見事に体現されてましたね。梨本さんも松田さんももちろん良かったし、我らが(笑)旗島さんも見事に八役を時には体当たりでこなしておられました。梅沢さんは以前「黙阿弥オペラ」の時も思ったけど、本気で震える、あのうまさには。脱帽です。

ただ一点惜しかったことは大高さんの文士コート姿がカーテンコールでしか正面から拝めなかった事かな・・・(笑)