「みつばち」阿佐ヶ谷スパイダース

洗剤による公害で肌が白くなる奇病が蔓延している島で、周囲を隔離し病から逃れ生活している人々。だが土地はやせ生活はままならない。そこにやってきた二人の浪人風情。最初は彼らの存在を怪しむものの、彼らのもたらす奇跡のような幸運や汲めども尽きぬと思われる物資に有頂天になる人達。しかし彼らの目的は意外なところにあったのだった。

どうにも行き場のない閉鎖空間の中での人間の業だとか情だとかの入り乱れ、結構好きなネタです。今回の舞台は物理的に「行き場がない」けど、長塚さんの作品では家族や男女の関係の中での「行き場のなさ」が描かれることが多いですよね。もうちょっとドロドロしてもよかったかなと思う所もありますが、総じて見せ場も多くて楽しめました。どんづまりの人間関係抱えて艶然と立つ女、なんて長塚さんの見ている理想ってこれなのかなあ。それにはちょっと鈴木砂羽さんに迫力が足りなかったような気もしました。伍朗がどうしようもなくのめり込んでいく様はもうちょっと見せてくれてもよかったような。あと十兵衛を中心とした狭い中での実権争いももうちょっと見たかった。個人的にはそういう話の方が好みだというのもあるんですけれども。

女の人もそれぞれ面白いキャラクターで良かったんですけれども、今回は男がみんなバカでかっこよくて素敵です。伍朗ももちろんなんですが、小七なんかめっさいい男だし、なにより熊夫のバカ可愛さにはしてやられますなあ・・・。最高じゃないですか、あんな男。どんなときでも全力投球だよ。愛する女が3人いたら3つに分裂する男だよ。いいもう許す!なにもかも!って気にさせますね、ええ。彼に惚れぬいたしほさんとつちさんの気持ちが分かるよ・・・。十兵衛ももちろん凶悪キャラではあるんだけど、なんだか憎めるんだか憎めないんだかだし。

鬘に着流しでセンターを張った山内さんは色気も十分、狂気も十分で、言うことなしなんじゃないでしょうか。なかなかに女としてはぐっと来るセリフを連発して下さったりするので嬉しい限り(笑)。中山さんの熊夫もよかった・・・彼の最期はちょっと泣けました。ああ、あんた本当に格好いいよ!とか思ってしまいましたよ。中村さん、市川さんの猫ホテコンビの牽引力も凄いと思ったなあ。市川さん、まるでヤクザの大親分のような貫禄とド迫力。殺陣のシーンはお見事でした!中村さんの狂気スレスレの「悪」っぷりもよかったです。女性陣ではなんと言っても志摩さんかな〜。きりりと和服を着こなす女郎ぶりと男装の落差が素敵。

それにしても長塚さんの木海、ものすごくおいしい役ですよね・・・あげて、落として、さいごにまたあげるみたいな。変態かと思わせておいて実は純情かよ!みたいな。本当にどこでびっくりするような綺麗なシーン(まわりが血の海でも)が出てくるかまったく予想つかない。これだから長塚作品は油断できませんな!