「幕末純情伝」 R.U.Pプロデュース

  • 青山劇場  B列32番
  • 作 つかこうへい  演出 杉田成道

筧利夫広末涼子W主演の二作品連続上演で話題の公演一本目。98年、99年に上演されたときは「新幕末」だったので今回はそれよりも昔のバージョンなのかな?と思ってたんですが「新幕末」ほぼそのままでした。演出的にも特に目立った変更はなかったような。WHITEBREATH、ジェットストリーム、そして「風に吹かれて」と、お馴染みの曲もそのまま。

つかさんの作品ってやっぱり独特で、その特有の濃すぎる感情のやりとりとか、特殊すぎる状況とか、ある種プリミティブな男と女の愛、みたいなものって、多分受け入れられる人とそうでない人とはっきり別れるような気がするんですよね。で私はどっちかというとそういうのがちょっと苦手な方、なのね(笑)で、場合によっちゃあこの独特の濃さが鼻についてしまって、うわーもう勘弁してくださいー、ってな気持ちになってしまったりするんですよ。
だけどどんなに濃くてもどんなにクサくても、その台詞の奥底にあるのはものすごく深い情愛だから、その情を役者さんがきっちり受け取って消化して、そして舞台から客席に投げてくれると、これはもう「どうしようもなく泣ける」だったり「どうしようもなく格好いい」に昇華されてくるんだよなあ。
というわけで久々に、つか芝居で泣いてきましたよ(笑)

なにしろ交わされる情の深さも台詞の量も物量作戦だから、最初はちょっと引き気味で見ていたんですけど、中盤あたりから見事に術中にはまりこみ、最後はもう涙涙でしたわ。筧さんはもちろんだけど脇を固める役者さんもさすがにつか常連で見事の一語。私この芝居って、ヒロインは居るんだけどヒロインが芝居を作ると言うよりは、男どもがそのヒロインをいかに愛するか、その気持ちで芝居が作られているような気がするんですよ。だからヒロインに求められるのは何よりもその男どもの愛情を一身に受ける器ではないかと思うんです。その点では、広末さんは完全に合格だな、と。思ったよりも立ち姿がきれいで、感情の起伏が素直に表現されるところとか良かったと思う。声の細さは若干気になったし、殺陣も頑張って欲しいところはあるけど。でも最後は泣かされましたし、個人的には満足してます。というか、5年前の藤谷さんより全然良かったよ・・・とすら思いました。

後はなんと言っても以蔵の山本亨さんと桂の鈴木ユウジさんかな。亨さん、カッコよすぎでかわいすぎ!以蔵って役自体すごく愛嬌があって好きなんだけど、亨さんがやると一層また馬鹿可愛くていいんだよー!そしてあの殺陣のうまさ、というかもう、美しさと言ってしまいたい切れ味はなんなんだろう!春田さんとの立ち回りで、腰を低く落として、にやりと笑いながらゆっくりと刀の柄を握り直すところがあって、い、いまの巻き戻し!巻き戻して!って感じでした。でもって鈴木ユウジさんの桂ですよ。いやいや木下さんの桂よかっただけにどうなんだろうと思いましたが、むしろこっちの方が好きかもだ!な見事な好演ぶりに舌を巻きました。今まで何作か拝見していましたけど、いやマジでこれが出世作になるかもぐらいなイキオイです。背も高いし声も良いので、舞台ですごく見栄えがするし。男前だしねえ〜〜。黒川くんを抱きしめて「お前が教師にならなきゃ誰が日本の正しい歴史を教えてやるんだよ!」ってとこ、すごく好き。演出家自らの「北の国からパロ」は笑えたし、笑いのツボもきっちり抑えてくれていたのも好感度大!です。春田さんは渋めで抑えつつもかっこいいし、久々のこぐれさん嬉しかったし、いやほんとお腹いっぱい。

筧さんはとにかく、圧倒的な台詞量を圧倒的なスピードでそして恐ろしく的確に吐き、動き、歌い、汗を流してます。まったくもって尋常じゃない運動量でしかもどれだけ動いても台詞がまったくぶれないその凄さ(普通のことかと思うかもしれないけどそれが出来る役者のいかに少ないことか!)。ああいう、熱のこもった演技ってほんとこの人のワンアンドオンリーじゃないかと思うほど、はまりすぎてて格好いい。なんか、5年前より迫力が増しているような気しましたけど。
私は筧さんの熱を込めてまくし立てる台詞回しも勿論大好きなんですが、静かに美しい言葉で語るシーンもすごく好きで。母親への手紙を読むシーンや、ラストの、故郷への思いを語るシーンがもう、泣けて泣けてしょうがありませんでした。決してテクニック駆使するタイプの役者さんじゃないけど、不器用ででも真っ直ぐなその物言いに胸をうたれてしまって・・・。筧さんて本当、舞台で夢を見させてくれる役者さんだよなあ。違う世界に、連れていってくれるよな。普通じゃないものを、見せてくれるよな。この人は本当にプロだなあって、舞台で見るたびに思う。そこが、やっぱり、最高に好き。

でも、私がどんなに言葉を尽くしても、あの凄さってやっぱり見ないとわかんない、ような。だから、迷っている人は、是非見に行ってみて下さい。