「美しきものの伝説」

大正ロマン華やかなりし頃、社会は貧しくも新しい文化が花開いた時代。それぞれの信じる主義・理想・夢・愛のためにひたすら駆けていった人々。未来に希望を求めて行動する大正期の芸術家・社会活動家たちの青春を描いた群像劇。

時代設定、主義、思想など飛び交う台詞に馴染みがないこともあって、単に台詞のやり取りを追うだけではのめりこめない部分も結構あると思いますが、登場人物の思想じゃなく「感情」を追いかけると、見えてくるものがあるような気がしました。あと、政治的な論議と平行して語られる芸術論は、言葉こそ今とは違いますが、あのころから変わらない問題もあるのだなあと改めて思わされたり。中で「役者とは」みたいな話をするシーンが何度かありますが、今まさに舞台に立っている役者さん自身、この台詞をどう捉えているのだろうと思うと、なかなか興味深いものがありましたね。

初日あけてあまり時間が経っていないせいもあってか、役者さんも巧者揃いとはいえ少々台詞が板に付いていない場面もあったのはまあご愛敬か?段田さんは後半、浅野さんと二人でガチンコ政治論を戦わせる時の迫力がとにかく素晴らしい。浅野さん演じる四分六の飄々とした持ち味も◎。山下容莉枝さんは、出番少ない方だと思うんだけどこれがもう見事なかっさらいぶりで良かったあ!ホントもっともっと舞台に出て欲しいよ!!!あと綾田さんはさすがの貫禄かな。彼と西川さん演じる学生との芸術論は難解ではありましたが引き込まれました。樋渡さんのルパシカは、ああ、樋渡さんだなあ、って感じの役作りなんだけど(笑)、政治とは距離を置きつつ「芸術」の道を模索するかれの、少し寂しげな独白とかで驚くほど力を発揮していて感心しました。やっぱりこの人うまいなあ、と。もうひとり、これまたそんなに出番が多いわけではないけれど佐戸井さんがもう・・・絶品。私はこの中で佐戸井さんのやった辻潤が一番難役だと思ったんだけど、なんだかある種禅問答のような台詞をよどみなく言い切り、しかもその中に暗い暗い深淵を覗き込むような男の存在を感じさせて客を引き込んでくれました。最後に、ほんの少し男としての悔しさをにじませる部分もいい。ドリさんは、もう上手いのはもちろん上手いんだけど・・・私的には別のキャストが良かったかなともちょっと思った。うーん、どうも野枝像がしっくりこなかったんだよねえ。それよりも劇中劇で一瞬見せた、松井須磨子のほうがドリさんに合ってた感じすらした。

あと、あのーどうしても納得行かないのはラストの演出なんですけどね。あの曲はないだろうと思うわけですがどうですかみなさん。わたしはちょっと腰を抜かしかけました。あのスロ−モーションの演出もどうなのかなあ。あそこでずいぶんがっくりきたので群唱はまったく印象に残らず(花持ってる羽場さんはかっこいいなあとかそんなことばかり考えてました)。その前の、段田&浅野の激論、そのあとの浅野さんの涙、歌で花降らして終わりってしたほうが良かったんじゃないかとすら思ったわけですが。後せっかく段差がつかえるセット組んでるのにほとんど上使ってなかったような・・・勿体無い。それと客出し、照明も音楽も「オイル」まんまってのはちょっと本当にやめたほうがいいと思います。はい。

個々の役者さんの力で面白く見せてくれてはいるけれども、もう一工夫二工夫出来たんじゃないのかな、というのが正直なところかな、うん。