「髑髏城の七人/アオドクロ」新感線

いやーなんだか懐かしかった。昔の新感線ってこうだったよなーっつーか。「無駄にゴージャス」目指しているうちに「ゴージャス」が消えて「無駄に」が残ったっつーか。なんだかやりたいものをいろいろぶち込んでいるうちにもうすでに地図のない旅に出てる!みたいな。とかいうと凄くけなしているように思われたらあれなんですが褒めてます。はい。ああ、新感線ってこうだった!と何度も思いましたよ。アカ観た時「新感線も大人になったなー」と思いましたが大人でない新感線も私は好きよ。

まず最初のあの無駄な映像で爆笑したのは私だけですか。気合入りすぎだっつーの。そのあと出てきた高杉さんのキャラと衣装と決め技もめちゃめちゃ無駄てんこもりでウケた。いらん、その強さは!みたいな。しかも何の役にも立ってないし!衣装もいろいろ細かいところでゴージャスだった。狭霧の網タイツはいったい・・・とか、なんで渡京はレザー仕様の着物なんだ・・・とか、極楽の羽根本物ですよね・・・とか、あのキャシャーンみたいなマスクに意味はあるのか!ない!って感じも好きです。全体的に本当にファットだったなあ。時間が長いのは本当にちょっと勘弁して欲しいと毎回思いますが、歌が入るとどうしてもこうなってしまうのかなあ。しかしその歌にいまいちインパクトに残る物がなかったのはちょっと残念。

しかし、一幕観ながらなっげえなあ!と思っていたけど、二幕になってからの展開はさすがに見せますねえ。この後半の異様な盛り上がりってほんとすごいと思うわ。

染さまの捨・天魔王は非常に満足。アオの捨はある意味女好きだけどエロじゃない、って感じでした。髪の白さとか琵琶が得物ていうのもあると思うけど。どうしても枯れちゃった法師とかを想像しますよね。世捨て人みたいな感じはだからより色濃く出ててよかったなあ。天魔王はね、これはもう染さまの血のなせる業というか、「生まれついて人の上に立つもの」みたいな圧倒的な傲慢さ、天上人感がありありですばらしかったね!古田さんだとどうしても「たたき上げの天魔王」って感じですが染さまの天魔王はもう、人に命令するために生まれてきたみたいな、そりゃ従わざるを得ないよ!って感じ。でもってだからこそ、本当に忠馬以下を「雑魚扱い」「虫けら扱い」してるのが如実で余計憎らしいんだ!きー!天守閣に忍び込んできた狭霧をぼっこぼこにするとこ、捨と間違われて心外な!って感じも良かったなー。台詞回しも最高でうっとり。

アオでまた男に戻った蘭ですが、役柄的にはわたしやっぱり蘭が男の方が好きですね。話として好き。でもって好きだからこそいろいろ惜しい!と思うシーンも多々。なんていうか、男なんだけど非常に女性的なポジションなんだよなー、今回の蘭は。私の好みとしてはもうちょっと押し出しの強いほうがいいなあ。というか池内くん、「ああ、いまいいよいいよー」という時と「池内くんどこ行くのぉぉぉー」という時の差が凄くあって、特に役柄的にどうしても染さまとの絡みが多いので、なにをどうやっても圧倒されちゃうんだよなあ。染さまがまた客前では「仕草ひとつでも観客に届く」演技をしているだけに、みるみるうちに蘭が小さくなっちゃって・・・。声もいいし姿かたちは本当にキレイだから、あとはもっと客を信頼してどーーーん!とぶつかってきて欲しい。もっとさらけ出せ、もっと爆発しろ、って感じかなあ。

アツヒロ君の忠馬は若くて元気で向こう見ず、可愛がられ型忠馬でしたね。荒武者隊を背負って立つ、ってあたりに説得力をもたせるために、川原さんをワンクッション置いて、川原さんを書き込むことで忠馬を立てて見せる、というやり方は非常に上手いと思いました。渋さはないけれど、その代わり怒りの瞬発力というか、キレたらなにするかわかんない、という感じの感情の爆発が随所にあってそれはかなり心つかまれました。個人的にはもっと、もっと怒ってもいい、と思います。とにかくもっと怒れ、それがあの「お前が虫けらだと思ってる連中の力、見せてやろうじゃねえか!」に繋がっていくと、忠馬が大きな柱になってこれると思う。

三宅さんのカンテツ、いや二代目贋鉄斎にはもう言う事ありません。「タナカ」を思いついたのがいのうえさんなのか中島さんなのか三宅さんなのかわかんないけど、とにかく思いついた人は天才だ!すごい!もうあれだけで勝ったも同然だ。セリフの間もトーンも絶妙で、巧者だなあ〜とほとほと感心。でもって「肌に無理なく深剃りがきく」のセリフが残って嬉しかった。贋鉄斎はやっぱりあのセリフでなきゃねー。ラサールさんの狸穴も悪くない。もともと声が高めなので、決めで声が浮きがちになってしまうところが惜しいけどもきっちり場を抑えてくれてたと思う。粟根さんの渡京はね、そりゃハマって当たり前(笑)とはいいつつも、なんだかんだと7年前を思い出させるあれこれに思わず胸ときめき。結構強そうに見えちゃうのはいいのか悪いのか。いいのか。いいんだよな。村木さんの仁平は思わぬ収穫!「百姓は地面だけ見てればいい」のセリフが見た目的にもすごく真に迫ってるし(何気に失礼です)、だからこそあの鍬の大立ち回りがすっごく気持ちいい!思わず「か、かっこいいい〜〜」と呟いてしまった私だ。

杏ちゃんの狭霧はすごく可愛いんだけど、やっぱどうしても「子供」感がぬぐえない〜〜〜。「熊木流の長はあたしなんだ」ウソだ!「すべての秘密はここにある」ウソだ!と毎回ツッコみそうになって困った。そこは設定を変えたほうが良かったんじゃないのかしらん、と思ったり。聖子さんの極楽は一言で言うと「貫禄!」ですな。しかしおもしろ場面よりもよりナイーブな場面での上手さが光っていて、オトナ〜〜〜って感じだったなあ。

7年ぶりに髑髏城を花道のある劇場(ま、本来ないんだけど)で観て、やっぱり最初の呪縛ってのは強烈だなあとしみじみ思いました。「俺は女の味方だよ」のあとはもう絶対花道をはけて欲しい私が居るのね。ラストも、絶対「ガラじゃあねえや!」で客に向かって走ってきて欲しいのよ。花道って、ほんと日本の舞台が生んだ素晴らしい財産だと思います!あれひとつあるだけで、あの立体感。思わずね、今は無き中座を思い出してしまった私なのですよ。


・・・と、ここまで一応「赤」抜きで「青」の感想を書いてみました。さて、じゃあ結局私はどっちが好きなのか、と言われると、それはアカです。うん。やっぱり、アカなんだ。でもね、もし、もしですよ、アオに橋本じゅんさんが兵庫役で出ていたら、あたしもしかしたら「アオ」って言ったかもしれないと思うんだ。それは言い換えれば、作品の好き嫌いなんてそんな理由ぐらいでないと決められないってことなのかもしれないです。

ただ、アカのときも書きましたが、私にとっての髑髏城の背骨はやっぱり兵庫なんですよ。それはアッくんじゃやっぱりダメなのね、とかいう単純なことではないんです。っていうかね、そんな、アッくんがかなわなくてあたりまえじゃないか?もともと「橋本じゅん」に書かれた役でしかも言ってみれば相手は14年物なんですよ。そりゃ味も沁みてるさ。いい味出てるさ。それでもアッくんには一瞬でも、彼にしか出せないオーラを感じる時があって、私はほんとに感動しましたよ。

だからね、人によっては、「髑髏城のここが肝なんだ」という所はきっと違うんだと思う。私にとってはそれは兵庫のダンナだったけれども、捨だっていう人もいるだろうし、蘭だって人もいるだろうと思う。荒武者隊こそが泣きツボだ!ってひとも、もしかしたらあのテーマ曲こそ大事だって人だっているかもだ。髑髏城はそれだけの奥行きのある作品だし、だからアカが好きだったりアオが好きだったり、意見も分かれるところだろうなと思います。

今回再演してくれてひとつすごく良かったと思う点は、これで「髑髏城」の再演がしやすくなったなあってこと。97年の髑髏城は私にとってももうひとつの伝説だったので、正直再演に素直になれない自分も居たりしました。でもこうやってバージョンをわけて見せてくれたことで、この作品自体の可能性もすごく広がったと思う。埋もれさせるなんてもったいない、本当にいのうえ歌舞伎のひとつの到達点だと思うし、もしかしたら将来、私にとってじゅんさんの兵庫を越えてくれる誰かが現れてくれるかも、と思ったり。ふふふ、でもね、壁は高いわよ、と意地悪ばあさんのようなことを付け加えたくなってしまうのが、ああ、ファンの性ですねえ・・・。