大人計画の半分

fringe blogで紹介された記事を見て、早速買ってきました。長坂まき子氏の「大人計画社長日記」。

長坂まき子という名前が私の中に深く刻み込まれたのは、松尾スズキ編「星の遠さ 寿命の長さ」のあとがきです。以下その本文より抜粋。

本文ではあえて大人計画の共同経営者である長坂の話はしませんでした。彼女は裏方として生きることに命をかけてるような部分があるので、話しても自分のことが書かれてる箇所を強引に削除してしまうだろうと思ったからです。
大人計画の半分は長坂まき子である、とだけ言っておきます。

くーーー。なんとも、ぐっとくるお言葉ではないですか。って、私が言われたわけでもないけれど、こんな風に書かれる「長坂まき子」という人って一体どんなひとなんだ、と興味を持ったのもご理解いただけるのではないかと思う。この「大人計画の半分」という言葉が、「大人計画社長日記」の帯の惹句にも使われています。

本の内容は、先に挙げた「星の遠さ 寿命の長さ」と表裏一体を為すものとでも言いますか、制作という立場から見た「大人計画」の歴史です。ある意味「裏話」でもあるので、のぞき見たいような、見たくないような複雑な気持ちにもなりますが、全編に渡って長坂さんの「大人計画」への愛情が感じられてそれに圧倒されるという感じ。舞台のことだけでなく、この2,3年で一気に露出を増やしてきた松尾さんならびに大人計画の役者さん達が「いかにしてここまで来たか」そして「その影に長坂あり」な様子が非常によくわかります。

っていうか、読みながら思いましたけど、もし長坂さんが居なかったら大人計画って・・・なくなってたんじゃないの!?みたいな感じすらしました。松尾さんは大人計画があってもなくても最後には頭角を現しただろうけれども、「大人計画」という存在を動かしてきた原動力は、松尾さんの才能と長坂さんの才覚だなあと。まさに、「大人計画の半分」。

今年の夏に行われたヴィレッジプロデュース「真昼のビッチ」のパンフでは、第三舞台の制作であった細川展裕さんと、現NODAMAPプロデューサーの北村明子さんの対談があって、それもすごく面白かった。こうもスタンスが違いますか、というような二人であったけれど、長坂さんも含めてやはり皆最終的に目指すところは同じなのだなと、それぞれに面白いもの、面白い芝居に対する飽くなき情熱が感じられて良かった。しかし細川さん、第三舞台時代に「券売の心配をしたことがない」っていうのは、ちょっと特殊かと思います(笑)。

しかし、制作って考えてみたら不思議ですよねえ。私のような観客にとって、一番直接の利害(というのは言葉がまずいけど)が絡むのは実は制作なんだものな。チラシ、劇場のサイズ、チケ代、DM、配券etc。だけど決して私達が直接に意識をすることはない。全てがスムーズに運営されていればいるほど意識にのぼってこない存在。

さて、私が今ちょっと気になっている制作さんが、実は阿佐スパの伊藤達哉さんなんです。多分「イヌの日」か「ライヒ」で阿佐スパに参加されたんじゃないかと思うんですが、阿佐スパの公式HPでみてもそこからの快進撃ってちょっとすごいものがある。さらにいつも感心するのが、公演を見に行くと殆ど必ず次回公演の案内があるんですよ。確定じゃなくても、だいたいこれぐらいにこんな事やりますよ、みたいなアナウンスのチラシがある。これって実はものすごい効果的だと思うんですよねえ。もうひとつ毎回有り難いなと思うのが、東京以外の地域での公演が非常に多いこと。毎回着実に公演地域を増やしていくあたり、すごいなあと。もちろん、長塚圭史さんの才能あってのことですが、その長塚さんも以前「今の制作と出会ったことが転機」とインタビューで仰ってましたし、阿佐スパの「半分」になりつつあるのかもしれませんよね。