十二月大歌舞伎

「鈴ヶ森」
これまた前回の反省を活かせもせず例によって番付見ながら話を追いかけるおばかな私。駕篭の提灯で権八が刀をゆっくりと見る所、でもって長兵衛が提灯を持ってもう一度刀を見る所がいかにも絵になるという感じであった。でもちょっと乗り切れないままに終わってしまった気も・・・残念。

阿国歌舞伎夢華」
ここまで舞踊を集中してみたことないかもというくらい楽しんで見れました。玉三郎さんの踊りを堪能出来てもう満足。踊りも良かったんだけど、紫の狩衣をはらりと滑らせるところとか、扇を持つ仕草とかいちいち美しいのにも惚れ惚れ。しかし名古屋山三が消えて、ああ夢だったと気づく阿国の切なさ、皆の踊りの中に居ながらも、ふと手を止め帰らぬ人を思うその溢れる情感に泣いた、思わず。自分でもビックリした。えーーなんで泣いてるんだオレ、という感じだ。劇場全体をも飲み込む玉三郎さんの「情」にすっかりしてやられました。

「たぬき」
この間松竹座で観た「狐狸狐狸ばなし」をちょっと彷彿とさせる様な筋書きでした。芸達者な皆様で隅々まで面白く見させていただける感じ。個人的には大好きな福助さんにひさびさにお目にかかれて嬉しい〜。相変わらず天性の間をお持ちでやっぱり大好きだ!と再確認。三津五郎さんも、前半のええとこのボンな風味と、後半の渋さ溢れる演技、全く別人のようにすら見せて見事。でまたこれもベタでありすぎるほどベタな結末なんだけど、三津五郎さんの最後の演技があまりに素晴らしく最後の二言三言で一気に会場中を泣かせてました。っていうか私が泣いてました。ええええ、こんな、子供使ったベタな手で泣くなよ!どうしちゃったんだよ!と思いつつ。うーん、年を取ったということだろうか。

「今昔桃太郎」
渡辺えり子さん作ということで、そう思って見るからかもしれないけどちょっと風刺が効きすぎてやしないだろうかとなぜか心配になってみたり。さらりと嫌みという感じは個人的には大好きなんだけど、ちょっと直球すぎないか?というニュアンスが気になったところも多々。うーん私の考え過ぎというのもあるのだろうけれども。その点に若干ハラハラしたことを除けば、勘九郎さん最後のお祭りにふさわしく非常にたのしい演目でした。過去の踊りを立て続けに踊って下さる所が圧巻、長年の勘九郎ファンにはたまらない構成だろうなあと思ったり。
大笑いして見ていたんだけど、長老の犬(関係ないが弥十郎さんの犬メイクがあまりに素晴らしく、犬にしか見えない!と妙に感動した)で又五郎さんが登場したときの万雷の拍手、そして勘九郎さんの万感の思いを込めた言葉に一気に泣きモード全開。花道に立っている桃太郎姿の勘九郎さんに、桃太郎で始まった勘九郎さんの歴史が、またこの桃太郎の姿で始まろうとしている、鬼退治に出かけていく桃太郎と、勘三郎襲名という大きな仕事に乗り出して行く勘九郎さんの心情が完全にシンクロする台詞のあれこれは見事としか言いようが無く、花道に立つ勘九郎さんの姿に、あなたがいたから歌舞伎にこんなに興味を持つ事が出来た、新しい出会いをありがとうと感謝の言葉をかけたくなった。たったここ3年ばかりのファンの私でさえそうなんだから、ずっと勘九郎さんを見守ってきたファンの方々の思いやいかばかりか。
勘九郎という名前は私にとって、永遠に偉大なる名跡で有り続けるだろうと思う。本当におつかれさま、そしてこれからのご活躍を期待しています。