「走れメルス」  NODAMAP

久々に、なにをどう掴んでも掴みきれない野田ワールドを堪能、という感じでした。まったく見たことのない昔の作品でしたので、個人的には新作を見る気持ちでわくわく。「わかる」ということはまったく期待もその努力も放棄しておりまして、とにかく目の前にある情景を受け入れる気持ちで見てましたね。

私は野田さん独特の美しい言葉が大好きなので、それを聞けただけでも満足は満足。ただ言葉の渦で溺れさせてはもらえたけれども、もう一歩その圧倒的な力で酔わせてもらうことはできなかったかなー。うーん、私の感性が鈍くなってきたというのも大きいんだろうけど。ラストの混乱のあと、もう一歩個人的に叙情が足りないとちょっと思ってしまいました。

とはいえキャストもこれ以上ないぐらい実力派揃いで、まったく舞台の隅々まで埋まりきってるな!という濃さが素晴らしかったですねえ。2回目に見たときはちょっとヒキで見ていたので、役者さん達の小芝居もよく見れて楽しかった。

わからない事自体は私は全然オッケー、むしろカモン!な気持ちだったんですけども、1回目に見たときに若干乗り切れない自分もいたので、2回目は勝手に自分の中でこの物語を「スルメの妄想」として見てみました。その方が物語には乗っていけたかなという感じ。そうするとまったく関係ないんだろうけど、最後が放火ということもあってちょっと「金閣炎上」を思い出してしまったりしたのでした。

キャストの中ではまずなんと言っても小松さんにすごく惹かれました。私は野田芝居の台詞を言う役者、というのにある種理想のタイプというのがあって、小松さんはまさにど真ん中!早い台詞をまったく殺さない滑舌の良さ、軽さ、その中で圧倒する強さと叙情、いやーここにいましたか、私の理想のタイプが!みたいな気持ち。野田さんと古田さんにもよくいじられて楽しそう。また野田芝居に是非是非出て欲しい。

深津さんはもう何というか圧倒的で、近くで深津さんを見ているともうひとりでどんどん世界を作っていくのでどうしても深津さんに目が行ってしまう。ほんとにすごい入り込み方で、鏡を覗き込みながら本当にぼろぼろ泣いてらっしゃったりするんだよ!もうその顔見てたら深津ワールドにあっという間に引き吊り込まれてしまうですよ。その芙蓉に恋するスルメの勘太郎くんも好演でした。野田さん独特の早い台詞に口跡がついていっていないかな〜と思うところが最初はありましたが、後半は迫力でどんどん押してきます。野田さんの台詞ってもともとちょっと古い言い回しになるところが多くて、そういう部分はさすがにうまい!あと感動したのが身体能力の高さ!素晴らしいスピードで動き回り、飛びはね、駆け上がり、野田舞台のスピードをよく体現してたと思う。櫻井さんと松村さんの二人に抱えられて「二度と振り返らねえぞ!」っていうところ、1回目見たときそのまま前のめりに落ちかけたのに、それを背筋の力だけでもう一度起きあがった時はひょうえええええーーー!でした。「最後の物理実験」で物干し台から飛び降りるところも、あれだけの高さを「ふわり」という感じで飛んでみせるとことかも大好き。個人的には後半のちょっとイッちゃった眼がたまりませんでしたね。小西さんと河原さんも悪くはなかったですが、こちらを呑み込むほどの叙情感を感じられなかったとこはちょっと残念。古田さんと野田さんはさすが、という感じだったかな。野田さん楽しそう。七人の刑事の中ではやはり浅野さんは当たり前にうまい。巻き戻し早送りの時の身体の柔らかさは見事!

パンフの中の扇田さんとの対談で遊眠社時代の作品をまた再演したいという話をなさっていて、その中で扇田さんが「三代目、りちゃあど」も是非と仰っていて嬉しかった。野田さん忘れてたけど・・・(涙)私も是非再演して欲しい作品です!