「SHIROH」 新感線

時は徳川、キリシタンご禁制の時代。かつて奇跡の子と呼ばれ類い希なリーダーシップを持ち人々を率いる島原の益田四郎時貞と、天性の声を持ちその声で人の心を操る天草のシロー。二人のSHIROHは出会い、そして悲劇の輪がゆっくりと回り始める。

思うんだが、新感線の舞台って大抵いつも完璧じゃない。なんちゅーか、ちょっといびつというかある意味洗練されていないというか、そういう部分が結構ある気がする。もちろんそのいびつさを愛しているファンも大勢いるわけだけど、しかし何よりすごいのはそれらを呑み込み、観客を巻き込む圧倒的なパワーに溢れていることなんじゃないだろうか。小さくまとまる劇団が多い中で、結成以来二十余年、そのパワーを失うどころか「老いてますます盛ん」(老いてないけど)なところはまったくもって感服つかまつりました!である。

とそんな大きなまとめで入ってしまった。終わってどうする。新感線初のロックミュージカル、ガチンコマジ勝負でミュージカルやってみたっす!うっす!みたいな気合い入りまくりの一本であった。多少アレレと思う部分もなきにしもあらずではあるけど、押し寄せるパワーの前にあっさり呑み込まれてしまったかなという感じ。まあいきなりぶっちゃけたことを言えば私はストレートプレイの方が好みではあるんだけど、しかし翻訳ミュージカル特有の「字余り字足らず攻撃」もないし、台詞は繋ぎでとにかくキレイに歌えばいいんでしょ的な自己陶酔タイムもないし、座付きの作曲家がはりついて書いて下さっているだけあって何より楽曲が芝居の中で自然に活きているし、ミュージカルをみているとどうしても出てしまう「普通に喋れ」というツッコミは一度も炸裂させずに済みました。

個人的にちょっと首を傾げたくなったところは、まずラスト。うーんどうにも、最後風呂敷慌てて畳みましたな感じが個人的には拭えなかった。シローが死んだあとの展開にもうひとつ、四郎のキャラを生かして一場面欲しかった。それが「最後の奇跡」に繋がっていくといいんだけどなあ。四郎が寿庵を「失いたくないもの」と思っている描写が劇中殆どないので結構唐突な感じもあるし、あとこれは個人的な好みだけど、3万7千の人々がシローに殉じていくより四郎に殉じて欲しかったという気がする。だってシローは神を信じていないじゃないですか。だからなのか、シローが死んでからの人々の殉教の行進に「勁さ」が欠ける感じがどうしてもしてしまった。リオが出てきて「最後の奇跡」に繋がるあたりの展開はすごく好きなんだけどなー。リオのキスで目覚めたあとの(「復活」かな)シローの歌声が響くシーンは素晴らしい。本当に奇跡を見ている気にさせてくれた。

もうひとつ、もし再演するなら是非再考願う!と思ったのがモニター。モニター要らない〜〜〜要らないようううう。舞台の上に置かれたモニターってすごく無機的な印象を与える。それがなんか、この舞台と合わない感じがしてしょうがなかった。しかも私が見た日モニターのうち1台が調子が悪かったらしく、ラストに向けてのものすごい緊迫感の中画面がちらっちらして目障りでしょうがなかった。あれを「歌詞を聞き取れない人が居るかも」「展開がわからない人が居るかも」ってことで補足説明のために使っていた場面もあったけど、舞台見ているときにモニタの画面なんて(しかもその中の文字なんて)追ってられませんよ。結局大事な役者の表情や動きを見逃して余計話が分からなくなるだけじゃないか?大丈夫だ、たしかに歌詞が壊滅的に聞こえない人もいたけど(それはどうかと思うけど)、物語のダイナミズムはちゃんと伝わってきてるから!あと現代の風景とオーバーラップさせるというのも、あんなに始終強調しなくてもいい。ラストのどう見ても現代の戦場の音と、なんなら戦車でもガツンと伝わってくると思う。こういうリンクのさせ方は個人的にはすごく好きな部類だけど、そのためにあのモニターがあるというのなら「そこまでしなくていい」という感じだ。

休憩入れてほとんど約4時間、と思うとなげえなあ!という感じがどうしてもしますが、不思議なほど長さは感じなかったですね。序盤の2,3曲ぐらいかな、どういうテンションでついていったらいいのか計りかねるところがありましたが、植本さん登場のあたりで一気に空気が和んで話に入っていけたかな。あの固い最初の空気を正確無比な馬鹿芝居で和ませていく植本潤さんの力業にちょっと感動。1幕は確かにちょっと散らかり気味の感じはあるけども、でもところどころに和みポイントがあって個人的には嬉しかったなー。和んだ空気を一気に「新感線」にたったひとりで(強調)染めていくじゅんさんのハートの強さにも惚れ惚れです。個人的にはシリアス一辺倒で押すよりもこういう空気は残しておいて頂きたい気がします。

島原の四郎は自分の力を信じられないがゆえに反乱軍のリーダーとなって立ち上がることを躊躇うわけですが、寿庵と出会い、「弱い人間だからこそ出来るのかもしれません」という言葉に決意を固める。弱さを乗り越えて立ち上がる人間、というのは私の涙腺をもっとも刺激するモチーフなのであって、またここの上川さんが魂の芝居で客席に高揚感を与えてくれるので、このあたりはもう新感線舞台特有のパワーにあっという間に呑み込まれてしまいましたねえ。対するシローは殉教を叫ぶ人たちの中で激しく違和感を感じ、リオの「歌って」という言葉に「拳に神は宿る」と高らかに歌い上げる。二人のSHIROHがそれぞれ自分の意志で立ち上がっていく様をリンクさせ、そのあとに二人の邂逅があるところなぞ、しびれるほどうまい構成。

さて、ラブストーリーに興味はないとか普段豪語している私であるが、ゴメン、超ツボだった。なにがって、お蜜とシローの恋が!見ながら思わず「こ、これや!!このラブや!!」と浪花商人のように手もみして買い付けに走りそうな勢いですらあった。世間の酸いも甘いも噛み分けて、天国も地獄も見てきたであろうお蜜が、まっすぐに自分に向かってくる男の子(ある意味天才)(しかも可愛い)(ピュア100パー)に揺れる揺れる、ぐらぐら揺れる。でもって男の子の方はなにしろピュア100パーなものだからもう自分のラブを直球勝負でぶつけてくるわけさ!彼にとっては彼女は自分の「生き場所」を与えてくれた人、自分が誰かの役に立つ、ここにいても良いんだよってことを初めて教えてくれた人なわけだ。自分の祖国に自分の居る場所がなかった彼にとって、その出会いの大きさははかりしれんだろう。でもそれすらも計略だった!なんて皮肉!でも計略のはずだったのにいつの間にかミイラ取りがミイラに!これも皮肉!演じる中川くんの、まさに天然犬っころ!みたいな懐き加減も素晴らしいし、自分の情を押さえに押さえてそれでも捨て切れぬ恋心を感じさせる秋山菜津子嬢がこれまた素晴らしすぎ。彼女を裁くなら俺を裁け!なシーンと、そのあとお蜜がシローに斬りつけるシーンとかもううわああ、ツボ、ツボ過ぎて首がかいいよ!なにが「安いラブストーリーは要らない」だ、ゴメンこれ、ある意味安いよな!読めるし!でも好きなんだ!なんでこんな王道に今更はまってるんですかと思いつつ、はまりすぎてお蜜とシローの死で自分の中のテンションがマックスになってしまった。ふい〜。

中川くんは声がすごく中性的なので、この「神の声」という設定にはどハマリしている印象。ポテンシャルを生かしきっていない気がするので、再演する際はもっと難曲を書いてあげても良いのかもとすら思った。前述のようにお蜜との恋におばちゃんはメロメロ。上川さんはこういう苦悩の人がはまるわねえ〜。歌は、もう全然イケてるじゃないですか!!なんだよ謙遜しちゃって!みたいな感じ。個人的にはじゅんさんとのおもしろやりとりをもっと見たかったナリ。殺陣のシーンもどれもお見事でしたが、十兵衛をぶったぎる時の殺陣が好きかな。そのじゅんさんはたったひとりで(と言ってもよろしかろう)新感線的笑いを一手に引き受け、それをちゃんと成立させるとこがさすが。植本さんも、短い出番の中で相も変わらず印象的な良い仕事。高橋由美子ちゃんはなんだかお蜜に較べると若干キャラにブレがある感じでその点気の毒かなと思いつつ、しかしクリアな声と歌、最後の慟哭の表情は印象的。お蜜はこの物語中もっともブレなく描かれている人物の気がする。秋山さんは歌も芝居も存在感バリバリでその設定を十二分に自分のものにしているし、彼女の存在があるおかげで物語に断然厚みが増していたと思います。いやはやさすが。

巷でジャイアンと評判の江守さんの歌は個人的には通しなんですけど、遊ぼうとしているのかなんなのか、芝居がグダグダになるのはちょっと勘弁かな。周りの人も平気でオチてるし。あかんやん。杏子さんは声が嗄れていたのかあれで100パーなのか、どちらにせよ歌詞はほとんど聞き取れず。残念。泉見さんのゼンザは可愛かったな。もっと歌わせてあげてもよかったのにー。吉野さんのダンス&歌&はじけた殿様っぷりは◎。聖子さん非常に格好良いキャラで好みでしたが、もっとクールでも良かったかも。成志さんと粟根さんは楽しそうに悪役商会やってるなあという感じ。ちひろちゃんのリオは声の透明感が素晴らしかったな。

帝劇に書き下ろしオリジナルミュージカルがかかるのは久しぶりなんだとか。ひや〜やるねえ新感線。そういう新しい扉を叩くというよりは叩きすぎて壊れちゃったみたいな印象もありつつ、小さくまとまるよりもそんな大きな新感線であれ!と、丸大ハンバーグのような気持ちで締めたいと思います。大きくなれよ!(これ以上?)