「荒神」 新感線

見てきました「荒神」。何回字面見ても「あらかみ」とか「こうじん」と言いたい私が居たのだが、芝居を観たら「あらじん」になりました。無国籍な匂い紛々な「蓬莱国」の城取りに、魔物と人間の恋、ドリームズカムトゥルーなキャラを絡めてジュブナイル。お子さまにも安心しておすすめできます。

2時間という話は前もって聞いていたので、ある意味もっとスカスカな舞台を想像していましたが、エピソードの分量はいつも通りでテイストを濃縮還元という感じかな。思ったよりもいい意味で「短く感じない」芝居でした。いつもの新感線の舞台を2時間でぶったぎったのを想像していたけど、3時間をつめてつめて2時間にしたのね、と納得。なんだやれば出来るんじゃないですか!いいよいいよ、2時間いいよ。やっぱり歌がないと大幅短縮になるんだなあ。

東京公演からそうだったのか、それとも大阪に来てから上り調子になっているのかどうかわからないんだけど、まあとにかく今日は田辺誠一デーですか、と言いたくなるぐらい田辺さんが凄かったのである。「これから第二部の始まり」になるところからおそろしい勢いで場を制圧してきて、ジンをもう一度呼び出すところはもう「今一体喋っているのは誰なのだ」と思うくらいまったく違う田辺誠一がそこにいました。いやあ凄かった。田辺さんの「陰」が際だっているおかげで、それと対極の位置にある「陽」のつなでも際だってくるんだよな。山口さんのつなで、ある意味「ウザさスレスレ」みたいな感じなのだが、田辺さんの変態的悪キャラに対抗するキャラなのでそのウザさがうまいこと効いてる感じがする。途中不覚にも目頭が熱くなりそうになって自分で驚いた。いくら年とったからって涙もろすぎだこりゃ。

田辺さんに対抗するのがつなでだと書いたけど、この芝居実は悪役に対抗するキャラが主役のジンではないんだよね。そういう意味ではジンと更紗の二人は主役カップルでありながらしどころの少ない役だと言えるかも。特にジンは主役にしては書き込みが少ない中、森田くんはよくやっているなあと思う。彼の芝居を観たのが初めてなので今回限りの印象なのかもしれないけど、どちらかというと「勢い一発」っていうよりも、「細部に神は宿る」ということをよくわかっている、積み重ねて芝居を作るタイプの役者さんなのかなーと思った。思った以上にナイーブな表現が良くて、声に芝居のニュアンスもよく乗っていたので、そういう意味でも更紗との絡みで脚本的にもう一押し欲しかった気がする。そうするとかなり後半の爆発に気持ちが乗っていけたんじゃないかなあ。殺陣のキレと身の軽さは過去の新感線客演陣の中でもダントツだと思う。動きが本当にいちいちキレイ。見せ方を心得てるなあと思いました。声も良く出てたけど、張り上げると若干声が割れるところもあってちょっと気になったかな。

私は戯曲を買っていないんだけど、買った人の話によると元の脚本では「本当の名前」がキーワードになっているらしい。ボラー&ツボイ&ジンのお父さん三人の過去を匂わす発言があったりだとか、「千と千尋」「ハリポタ」(ハリポタはギャグでネタにもしてましたね)のテイストを感じないでもないですよね。そのあたりの題材の切り取り方諸々含めて、対象年齢は下げ目で狙って書いたのかなあという感じ。それでもきっちり枠に収めて、なおかつバッチリ形にしてみせるいのうえ&中島コンビは職人だなあ、と感心しきり。

新感線な役者の方々もなかなかに大活躍で、まずなにより川原さんの殺陣をこれでもか!!というぐらいいっぱい観れたのがほんっっとに嬉しかった。いつもいつもあっという間に終わっちゃうからさあ。もう、堪能!でした、はい。前田さんとカナコさんのチャーリー&エンジェル、実は結構好き(笑)。ああいう無駄な動きや恥ずかしさスレスレのキャラは大好きです。河野さんが一体いつぶりだ!というぐらい爽やかキャラで、これはファンの人はたまらんだろう!と思ったり。粟根さんのツボイは仕事師の風格。あんな格好ながら殺陣もそれなりに多くて、こちらも眼福。じゅんさんは舞台のキャラそのままに「ジンのお父さん代わり」って感じでなんだかほほえま〜〜〜であった。ボラーのキャラとしては若干爆発力が足りない気もしましたが、今回は森田くんを立てる!という感じなのかな。

今回客演陣4人はそれぞれ本当にいいバランスで良かったです。森田剛初舞台!ということでいろいろ話題ではありましたが、SHIROHから本当に短いスパンでここまで持ってくるのはすごいっすね。大阪で見たということもあるのかもしれないけど、アンサンブルとしてもかなりまとまってきていて、芝居のみならずお遊び的なシーンも含めて全くスキのない2時間という感じ。非常に充実感のあった観劇でした。新感線に初めて出た森田くんや、新感線初めてご覧になったお嬢様方にも気に入っていただけると良いのだけれど。