「SHUFFLE」

後藤大王のアイデア一発、という感じの脚本。いい加減だけど勘と要領だけはいい刑事、女を次から次へと変えることから「シャッフル」とあだ名されている男が、転落事故の影響で相貌失認(人の顔を正しく認識することができない)になってしまう。自分の目の前に現れる人物は、同僚の顔をした上司、アイドルの顔をした目撃者、という具合にすべてがシャッフルされて見えてしまう。連続宝石強盗ハートを追う彼の運命やいかに!

イデアが優れているのでそこかしこにしかけられた笑いの地雷がいとも簡単に炸裂していくのが見事です。シャッフルを演じる伊原さん以外は皆さん他の役になりきらなくてはいけなくて、そのギャップだけでも充分に可笑しい。なかでも平田さんのパワフルな演技にはまったくもってしてやられました。いやーすごいわあの人。三上さんと風花さん、山内さんもそれぞれある意味ステレオタイプな役所を平坦にならずにキャラを立たせていてよかったです。
伊原さんは「シャッフル」のあだ名も納得な愛され型色男で堪能堪能。三つ葉の頭をなでてやるシーンに非常にぐっときた。思えば大王はこういうさりげないラブシーンを描かすと本当にうまいのだよなあ。

ちょっと気になったのは全体的にテンポが遅めだなというか、もっと畳み掛けてくれたほうが個人的にはもっとツボだったろうな、ということかな。

後藤大王が劇中でも説明されていたようにこういう症状は本当に存在します。オリバー・サックスの「妻を帽子と間違えた男」はタイトル通り、本当に妻と帽子を間違える男の話で、その中に事故で相貌失認になってしまった男性の症例が出てきます。

いろいろ突っ込みどころはあるとはいえ(相貌失認でも、声の判断がつかなくなるわけじゃないし)、こういうところからこれだけエンタテイメント性あふれる舞台を創り上げられるというのがすごい。後藤大王のセンスは面白いなあと感心してしまいます。