「LAST SHOW」 パルコプロデュース

  • シアタードラマシティ 2列15番
  • 作・演出 長塚圭史

個人的に過去のいくつかの長塚作品のようなカタルシスは今回感じられなかったのですが、作品として完成度の高い一本だと思いました。どかんと重量級。

私はホラー全般がもうとにかくダメで、スプラッタなんてマジ勘弁して下さい!なんだけど、こういうグロは大丈夫なんだよな・・・明らかに作り物とわかるからか、「怖がらせる」「気持ち悪がらせる」ために出されているものじゃないからか。WEE THOMASのときも最前列で見たけれど平気だった。別に観た直後に肉食えといわれても大丈夫です。

「愛しているから」という言葉の下につく言葉はどこまで許されるのかな?「愛しているから」「結婚する」、「愛しているから」「セックスする」、「愛しているから」「殺す」、「愛しているから」「食べる」。まともとまともじゃない線引きはどこ?老夫婦が自分の死んだあとのことを思って相手を道連れにするのはまともじゃない?一方的なストーカーが相手に性行為を迫るのはまとも?愛しているから食べるんだ、と言った渡部は?
結局は、どんな行為も相手の存在ありきだ、ということにすぎない。「愛しているから」が「愛し合っているから」だとずいぶん違うんだ。だけど長塚さんの作品に出てくる人たちは皆「愛しているから」としか言わない。そのいびつさがおそろしくもあり、切なくもあり。

その一方通行のいびつさの中で、たったひとり「ワタシ」だけがきちんと相手を意識しているところがなんとも。キラキラにまみれながらキラキラの台詞を吐いて去っていく市川しんぺーさんに笑い泣き。

しんぺーさんのシーンはぐっと来たんだけど、しかし最後までフラットな視線で見れてしまったなあという感じがあって、私の好きないくつかの長塚作品で連れて行かれたような揺さぶりは今回なかったんですよね、自分には。それがなんでなのかは自分でもよくわかんないんですけど。


ラストの爆発音は高速増殖炉なのだろうけど、ここはいろいろ解釈できるところですよね。爆発が起こって放射能が漏れ、ここにいる皆遠からず死んでいく、つまりこの阿鼻叫喚からの救済を用意しているのかな?とも思ったのだけど、パンフ読んでまたちょっと考えてみたり。今回、チラシの意匠が長塚さんがカメラを構えている図で、宣伝写真のコンセプトはみな「撮られてる」というシュチュエーションなんだよね。つまり「撮る」って行為をかなり重要なモチーフにしているんだと思ったんだけど、ラストで美弥子がテレビをつけるんだけど、それまでテレビをつけたら必ず(100%だったと思う、記憶に間違いがなければ)高速増殖炉のニュースをやっているのに、ここで流れてくるのはまったく関係のない番組。つまり「本当のことだけ映さない」テレビと、「本当のことだけを映す」中島のカメラを対比させているのかなあと。ま、このへんはどう解釈しても多分許されるところだろうと思うので、そんなことも思ってみたり。

風間杜夫さん、さすがのオーラ。最初に出てきたシーンだけで充分すぎるほど怖い。台詞も何もないのに、一瞬動きを止めたり、じっと見つめる仕草だけで観客にいやな汗をかかせる。私風間さんを見たいのに、あまりの怖さにわーー早く閉じこめちゃって!とか、逃げて逃げて!とか必死に思ってしまいましたよ。あの衣装棚からでてくるところはシャイニングばりでしたな!有起哉さんに迫るところ、凄かったなあ。でも正直、その気持ちわかると思ってしまった私ですよ。あの琢哉の真っ直ぐさは痛い。凶器となるほどに。勝哉は狂気のひととは私には思えなかった。ただ哀しいなあって。だからこそ、しんぺーさんの「あんたは誰かを幸せにしましたか。産まれてこなければ良かったのはおじいちゃんのほうだ」という台詞が痛かったです。

息子をやった北村有起哉さんはこれ、非常に難役だよなあと思いました。受ける一方だもんね・・・。北村さん、さりげないシーンのさりげない感情の発露がうまくて、それがこの琢哉という役にリアリティを与えてると思う。お父さんと最初に再会するシーンのあの表情!永作さんとの絡みもよかったなあ。永作さんほんっっとに可愛いし!「こういうグロは平気」と言っておきながらなんですが、私は冒頭みたいなかわいい二人のやりとりも大好きですよ。あーこのまま幸せだったらいいのになーこの二人、と何度も思ったけど、こういうのはジェットコースターの登りのようなもので、最高点からあとは落ちるに決まってるんだ。くうう。

古田さん、すげえ楽しんでやってらっしゃる様子がありあり。渡部が熱弁を奮うところはすごい迫力でした。「俺が先に死んだら俺を食ってくれ」的なことを母親に頼んでいたという割には、「ワタシ」に迫られて震えるあたり、本当に「愛しているから」だけで突っ走ってる感があってよかった。あれ、喜んで食わせていたらそれはもう倫理感がまるごと違うってキャラクターになってしまいますもんね。

今回、物語の中で長塚さんの目線の役割を中島がしているのかな、という感じがあります。お話の目線は有起哉くんなんだけど、それを見て(撮って)いる視線がどこか、ありますよねえ。それにしても中山さん、またしても最初このひとちょっとうざいな、とか思わせるのに結局いちばん格好いい、って役じゃないですか!携帯折ってもいいよ!とか言ったとこじーんとしたよ!

あと、忘れちゃいけないトリュフくん(笑)。私、舞台に古田さんが居たらもうどうやっても古田さんに目がいく病気なんですが、それでも思わずトリュフくんに集中しちゃったもんね。かーわいかったああああ。おとなしくしてるよね〜!その後の悲劇を想像しつつ、愛嬌あるトリュフくんにしばし和みました。それにしても泣く子と動物にはとはよく言ったものね!