「エドモンド」 SISカンパニープロデュース

ひとりの男が、占い師の元を訪ねる。「あなたは、居るべき場所にいませんね。もっとも居るべきところに居る人間なんて殆ど居ませんが、あなたの場合はそれが顕著です。」その言葉に動かされた男は街へ飛び出していく。「こんなはずじゃなかった」人生を取り戻すために。だが、どうやって?
平凡だったはずの男の人生が、ひょんなきっかけで転落していってしまうという物語。

占い師を訪ねてから、グレナの家までの前半がすっごく良かった。ある種ロードムービーみたいで、入れ替わり立ち替わり芸達者な役者さんがそれぞれ違う姿で現れるのを次から次へと眺めて飽きない。悪意のささやき、暴力、裏切り、自分へ向けられた嫌悪感、そういうものがエドモンドの中にどんどん蓄積していくのが手に取るようにわかって目が離せない。ついに黒人の売人にナイフを向けられ逆上するところ、そのあとのエドモンドのキレっぷりがすごい。

そのエドモンドの「自分解放の旅」の頂点にグレナの家での出来事があるんだけど、ここからはエドモンドの「自省の旅」みたいになっていくのでちょっと前半に較べるとテンションが急に落ちる感じがするのはしょうがないのかな。私的には前半があまりに良かったというのもあって後半はちょっと集中できなかったかなあという気もします。

あと、個人の好みだろうとは思うんですけど私はどうも小泉今日子さんという女優が苦手なようなのだな。グレナのシーン・・・もうちょっとなー。声が多分好きじゃないというのも大きいんだろうけど。

ちょっと芝居と話がずれるかもしれないんだけど、最初のバーのシーンで黒人について男と話をするじゃないですか。まあそのあとも超一級差別用語がばんばん出てくるんだけど、アメリカっていう国はなんか常に「fine」だの「OK」だの繰り返している国で、自分がOKじゃない、っていう状態をすごく押し殺しているイメージが私にはあります。特に中産階級に属する白人で、結婚し職を持ち、「古き良き」アメリカ、なんてものを体現しているような層にとってはそれは顕著で、だからこそ自分の感情があふれ出すときに、明らかに自分達と違うもの(そして、常にOKであれという呪縛から自由なもの)への憎悪が吹き出してしまうのかなあと思ったりしました。うーん何言ってるんだかわかんなくなってきたぞ。

ま、書いたついでに続けてしまうと、最後はエドモンドも「OK」の呪縛から解き放たれたのかなあ・・・と思うのですが。

長塚さん、円形演出初めてなんじゃないかと思うのですが、すでになんか「手慣れた」感すらあってすごいなあと思いました。円形って本当に見るブロックによって当たりはずれあることもあって、私はCブロックの最前だったんですけど(Dとの境目)あ、今この人の表情見たいのに見れない!!というストレスがほっとんどなくて、これがたまたまなのか、それともどのブロックでもストレスなく見れるのかわかりませんが、パンフによると演出席ぐるぐる動かしながらやっていたそうなので、さすがだなーと思ったり。芝居によっては、Aブロックに演出席ありましたよね、とわかっちゃうようなものもありますものね(笑)
でもそれでもCブロックはマジでよかった、なぜなら売人にキレて怒鳴りまくる八嶋さんが目の前だからだ!いやすごかった、あのシーン。あの目の色。って、それぞれのブロックのひとがそれぞれに思っていたら、笑えますね。というか、すごいですよね。

照明も舞台装置も特筆もののかっこよさでほんと、初円形にして手慣れてるなーーーと改めて演出家・長塚圭史に感心。

八嶋智人さん意外にも初主演ということでしたが、いやー良かったよ八嶋さん!!惚れ直した。前述のシーンを筆頭に、魂の入った芝居の数々で引き込まれました。その八嶋さんを取り囲む役者陣の素晴らしさ!特筆すべきは、というか私はもう小松和重さんにクギヅケ。たまらん。うますぎる。なんなんだろうこのうまさは。どこに出てもちゃんと的確な人だよなあと改めて思いました。そして声が良い・・・聞き惚れちゃう。あーほんっと格好良かったなーーー!
お久しぶりの明星真由美さん、オープニングで声だけが暗闇の中から聞こえてきたときしびれましたよ。あの声だあの声だ、姐さんおかえんなさい!