「エビ大王」TEAM ARAGOTO vol.1

  • 青山劇場 XC列23番
  • 作 洪元基 演出 岡村俊一

舞台は古代韓国。一国の王であるエビ大王は、天命を終えたとして迎えにやってきた使者に対し「息子をもうけるまでは死ねない」と懇願する。息子をもうけるまで命を長らえさせるかわりに、1日30人の民の命が喪われることになっても、エビ大王の自分の血統を繋げていく執念は揺らがない。一方、待望した男ではなかったといって生まれてすぐに捨てられた娘のパリテギは、船頭夫妻に拾われるが、波瀾万丈の人生が彼女を待っていた。

「殺してはならぬものを殺し、交わってはならぬものと交わる」というオイディプスの物語や、因縁因習、予言、思わぬ血のつながりなどがシェイクスピアを彷彿とさせます。しかしこの「男子」への執着、「血統」への執着、三種の神器などの力の象徴、そういったものはアジア的というか・・・韓国と日本、ふたつの国の根源が近しいことを改めて感じさせられました。

女、娘というものを徹底的に差別するエビ大王の発言の数々や、分断された国家など現実とリンクして思いを馳せてしまうシーンも数々ありました。だって、私達だって「女性天皇」は構わないが「女系天皇」には問題があるんじゃないかと大真面目に全国紙が論じる国に住んでいるんですものねえ。

細部が云々というよりも、脚本の根源に「今の世界への問いかけ」というものがしっかりとあって、熱い脚本だなあと、さすがTEAM ARAGOTOだなあと。

「筧さん」で「荒事」だから、舞台を所狭しと走り回り、女、女!けだもの、けだもの!な筧さんを想像される方も多いと思いますが(どんなイメージなんだ筧さんって)、今回は年老いた王、横暴かつ傲慢な専制君主であるエビ大王を演じているので、今まで筧さんが演じてきた役柄とはかなりラインの違うものです。「動」より「静」と言いましょうか。

以下はネタバレのうえかなりヲタ的たわごと、といった部類に含まれるのでお好きな方のみどうぞ。

自分の娘達に投げつけるこれ以上ないほどひどい言葉や仕打ち、己の血を残すことのみに専心する妄執、取り憑かれたような王の姿、王位を追われ老いさらばえそれでもまだ血統への執念を見せる狂気、そういったものを重厚に演じきる筧さんに見惚れました。いやあかっこよかった。私は筧ヲタなので普通の人ならエビ大王に腹を立てるところでも「ああ、こいつ最低なのに筧さんカッコイイ」とわけのわからない陶酔の仕方をしていたので自分でもちょっと病気だなと思いましたね。そして相変わらず台詞が完璧、言いよどむどころか、噛みさえしなかったですよ、相当の台詞量だけども。その台詞量を「こなしている」感は微塵もなく、すべてがちゃんとエビの台詞として吐き出されているのがまたすごい。さすが稽古初日にすでにホンを手放していた男!

それでもまだ終盤のとあるシーンまでは、芝居全体の流れに集中していたというか「筧さんさすがだな〜」とある意味冷静に観ていましたが、自分の息子を生むと予言された女が自分が捨てた娘だと知ったその時の慟哭がすごい、とにかくすごいのです。大声を出して嘆くのではなく、大仰に顔を歪めるのでもない。彼は声も出さず、産まれた子に着せた産着で顔を隠して泣くのです。あれだけの動きで、エビ大王の後悔と運命の残酷さを一瞬にして観客に伝えきる。「届く」芝居ってこういうことだよなあと、今になればそう分析も出来ますが、正直私はこのシーン以降筧さんしか見えない「筧利夫ひとりブルースクリーン状態」に陥ってしまうほどこのシーンにしてやられました。

重厚に舞台の芯を勤める筧さんに対して、日直使者&月直使者の河原雅彦橋本じゅんコンビが時には軽妙洒脱に、時には人外の残酷さをもって緩急をつけてくれるのが良かったですね〜。岡村演出って結構笑いを取ろうとして失敗していることが多いけど、この二人だと遊んでいても安心感があるというか、なにより客をつかむのが断然うまいのでずいぶん助かっているなあと。幕間がわりのショーみたいなやつは大好きですよ、ちなみに。あそこまでバカバカしいと逆に好き。

佐藤アツヒロくん、殺陣の華麗さに舌を巻きました。すばらしい!物語後半で出てくるときのビジュアルがすっごくツボでした。格好良かったの〜。もっと「男臭さ」というか、オスな感じが出てくるとまた違う末将勝になりそう。伊達さん、結構特殊な役柄ながら熱演でしたねえ。こぐれさん、最後に出てきた役(鉄器を作っていた男)が格好良かった・・・新感線ではもうずいぶん見かけることがなかったこぐれさんの格好良い姿が見れて満足。パリテギのサエコさん、末娘の佐田真由美さん、どちらもなかなか頑張っていらっしゃったです。パリテギはもうちょっと状況の変化に応じて表現に違いが欲しいところ。佐田さんの凛々しさは結構買いかな、個人的には。

観る前はいろいろ不安材料もありましたが、思った以上に「出来上がっている」という感じなのがよかったです。やっぱり筧さんは舞台の人だな、と。あと私チケ取りに気合いを入れすぎて前方席しか持っていない(それも全部2列目とかそんなん)んですけど、舞台セットや特殊効果が青山2列目だとまったく見えないに等しかったので後方席でも1回拝んでおきたいのだがどうしたらいいのでしょうか。って知るかそんなこと!