「クラウディアからの手紙」

  • シアタードラマシティ 5列10番
  • 脚本・演出 鐘下辰男

太平洋戦争の朝鮮で、スパイ容疑でシベリアに抑留され過酷な日々を送った蜂谷弥三郎。彼は出所後も妻子がいる日本への帰国は許されず、ロシアで暮らす。そこで、やはりつらい境遇だったクラウディアと出会い結婚をする。妻、久子は娘とともに帰国。再婚話も断り続け、ひたすら弥三郎を待ちつづける久子。
そして50年後、久子と連絡が取れた弥三郎はクラウディアに押されるように、ついに日本へ戻る…。

「あまりの感動に涙が止まらない」とか書かれるとそれだけで出ている涙も引っ込む天の邪鬼なワタクシなので、直球「いい話」な感じにそれだけで斜に構えているおりましたが、いや、ほんと普通にいい話だわこれは・・・斜に構えていてもほろっと来ますね、うん。

舞台セットはシンプルで、中央に絞首台(っぽく見えた、違うのかな?)があってそこに大きな金属の棒が吊してある。それを時間の大きな流れが変わるたびにうち鳴らすといった演出。うーんなんだか前衛的な・・・。そしてさらに不思議なのが黒シャツ集団やモブシーンでの不思議ダンス。なんだかイデビアンクルーみたいと思ったら本当に振付が井手さんだった。しかし、再演の「ダブ鐘」でも井手さんが振付で参加してらしたけど、正直井手ダンスをうまく活かすのってすごく難しいんじゃないか!?なんかみんな安易にお願いしてないか!?ダンスの上手い下手じゃなくて、というかうまさはもちろん期待していないのだろうけど、じゃああのダンスで舞台上に何を生み出したかったのかっつーのが全然伝わりませんでした。むしろいたたまれなさだけが伝わってきた。

芯のストーリーは本当に凄まじいものなので集中はできるんだけど、その抽象的な演出の数々が最後まで不思議な印象を残したって感じ。

しかもソ連が崩壊していよいよ弥三郎が日本に帰国するか否か、というクライマックスは普通(というか、むしろベタ)な演出だったのも不思議だった。そこは素直にこの愛に感動して下さいということなんだろうか。感動しましたけども。ラストにご本人のドキュメント映像を見せてしまうというのは、私は演出としては「やりすぎ」だとは思いますけども、でもあれを見てしまったらそれはもう感動せざるをえないよ・・・という圧倒的な力がありますね。っていうか(題材が真実のものであるかどうかはともかく)演劇なんて「大いなるウソ」を見せているものなのに、そこだけ本物っていうのも・・・なんというか、バランス感覚が失われる感じ。

クラウディアの「あなたの夢を応援したい、だからあなたが日本に帰る日まであなたの妻でいさせて下さい」というとことか、別れのシーンで読む手紙の「捧げた愛が無駄ではなかったこと」というところで演じる斎藤由貴さんが声を詰まらせるところ*1など、会場からも鼻をすする音が聞こえておりました。

私はラストシーン、若い姿の弥三郎とクラウディアと久子が、理容室の椅子に座り談笑するシーンがもっとも涙腺に来ました。というのも、これは本当にはありえなかった3人の失われた時間そのものだと思ったからなんです。私は「切ない」というものに弱いですけども、演出家の板垣恭一さんが言っていた「切ない」というのはどうしても叶えたいのにそれが絶対に叶わないということだ、という言葉は本当その通りだなあと思います。あのシーンは切なかった。切なくて美しかった。

しかし舞台の上で年月が進んでいく中で、物語が自分の生まれた年を過ぎたときすごくドキッとした。やっぱり自分の頭の中で「これは昔のお話」と思っているところがあったんだと思う。自分の生まれた年を過ぎ、自分が大人になっていく年を過ぎてもまだ異郷の地から遠く故郷を想っていたひとが現実にいたんだという重さはずっしりと心に残るものでした。

*1:まるで本当に感極まってしまったかのように言葉に詰まるのですが、他の感想でも「あのシーンで泣いた」というものを散見するので多分斎藤さんの演技プランなのだと思う。あのシーンで毎回ちゃんと感情のクライマックスを持ってこれる斎藤由貴さんに拍手。