「決闘!高田馬場」PARCO歌舞伎

お祭り騒ぎにみっともなくも舞い上がりすぎてしまい、感想がすっかりお留守になってしまいました。いかんいかん。いや別に誰にというわけでもないですけども(笑)

おまけつき、ということを除いても、すごく楽しかった舞台でした。興奮が頂点に達した瞬間の幕切れ、という構成もよかった。

三谷さんの今までの作品の多くは、染五郎さんがインタビューで(GRAZIAだったかな)語っているように、「脚本が演出を決める」*1部分がすごく大きいと思うんですよ。TSB時代にしても、今までのプロデュース作品にしても、三谷さんの作品はパズルのピースが最後にはかっちりはまるような見事な構成力が魅力のひとつだと思うんですが、今回三谷さんはその自分の得意技で勝負せず、歌舞伎という世界に飛び込んで、その枠で芝居を作ろうとしたんだなあというのが、まず大きな印象。

野田さんの演出した歌舞伎が、どこを切っても野田ワールドであったのとはそれはすごく対照的で、野田さんは自分の世界に歌舞伎を当てはめてみた、という感じがある。それは演出家としての野田秀樹三谷幸喜の違いで、やっぱり三谷さんは、ご自身でもそう仰ってるようになによりもまず「脚本家」なんだなあと思った。

三谷さんの脚本には確かにスピード感というものはあまりないけども、でもラストへ向かっていく「畳み掛け技」というのは得意分野だと思うんですよ。「12人」にしたって9号が本気になりだしてからの畳み掛けていく感じはすごいし、でも今までそれは「言葉の畳み掛け」であったわけです。今回の「決闘!高田馬場」で三谷さんはその畳み掛け技を、役者さんの肉体に託したという感じがすごくしました。言い換えれば歌舞伎の文法に託したというか。三谷さんの舞台で、物語の勢いではなく役者の勢いに呑まれるなんていうことは殆どなかったことで、それがあのラスト15分の何とも言えない高揚感にも繋がってきている気がします。

こう言っちゃなんだけど、演出として目新しいものがあったかっていうと、別に無かったって思うんですよ(笑)歌舞伎の世界を外から見ている人ならではの新鮮な発想とか、お遊びはすごく楽しかったんですけど、でも見終わったあといちばん心に残っているのは何よりもあの高揚感と、「あー楽しかった!」っていう満足感で、それは三谷さんの目指すところでもあったんじゃないかなあと思う。

個人的に気になったのは、長屋のシーンで回想が続くところかな。あれ、又八が回想を始めた時点でこれがあと4人続くなってわかってしまうわけで、そういうのは個人的に見せ方をちょっと工夫してよ、と思ってしまいます。それぞれのシーンはすごく良かったんだけどねえ。

そうそう、アドリブなのか単なる日替わりネタなのかはわからないんですが、そういうちょっと「グダグダ」的なところを三谷さんが許していたのもすごく意外でした。又八の回想シーン、ほりと弥兵衛のシーン、人形劇と3カ所ほど役者が自由にやっているらしきところがあったのですが*2三谷さんってそういうのダメを出しそうなのになーと。もしかしたらダメを出していたのに勝手にやっていたのか・・・?いやそれはちょっと考えにくい。と思いたい(笑)

染さま、ほんっっついい男ね・・・!もううっとりでした。私ダメ男好きだからさ!へなちょこ好きだからさ!ダメな自分に苦しむあまりさらにダメになっていく、まさにダメスパイラル!素敵!そんな男大好物!あの襷を瞬時にかけるところとか、刀を抜いてみせるときの美しさとか、巻物をさらっと広げるときの所作とか、でも何よりもぐっときたのはラストで高田馬場にむかって一人駆けていくところ。あの掛け声にしびれまくりよ、もう。勘太郎くん、このパルコ歌舞伎の話を聞いたときから、私の勝手な願望として ①染さまと兄弟、もしくはそれに近い関係(平井兄弟好きだから)②そうでないのなら、敵対関係③死ぬ役 のいずれかが希望だ!と思っていたら全部がうまいことミックスされた役所で本当笑いました嬉しすぎて。いやありがとう三谷さん!相変わらずの熱演ぶりでしたが、敵方の前で安兵衛たちに対して露悪的に振る舞うときの声とかがすごくツボでした。

そしてこの芝居の大いなる立て役者、亀治郎さんのすばらしさ!三谷作品出演初めてながら、実はもっとも三谷さんの求めるテイストを表現していたかもしれないなーと思いました。真面目なのにおかしいひとという右京のキャラの立たせ方も見事だったし、「歌舞伎」な演技を一身に背負っているような感じでしたが客席から自然と拍手が沸き上がる熱演ぶり。それにほりちゃんのキュートさったら!「ほりちゃん名言録」を作りたいイキオイ。染さまもだけど、亀治郎さんも早替えすごかったよな〜。ブレヒト幕の中から顔だけ出してほりちゃんの声だけやってくれるところとかもう大笑いでしたよ。

あと、私的にクリーンヒットだったのは高麗蔵さんのにら蔵。ごめん、つくづく、こういう男が好きなのね(笑)でも粋で鯔背で江戸っ子!という空気をいちばん感じさせてくれたかな〜。宗之助さんのおもんさんもすっごく可愛らしい人でよかった。私の友人はおもんさんの女っぷりに夢中ですた(笑)萬次郎さんのおウメさんの軽妙洒脱な中にも品のある役作り、錦吾さんの重厚さが舞台の重しをしっかり果たしてくれていた感じでした。

こういう試みは、一回限りじゃしょうがないと私は思うので、ぜひこういう場をこれからも作っていって欲しいです。で、三谷さんにはいつか、ご自身の得意技を炸裂させた世話物を書いていただきたいなあなどと妄想してみる次第。

*1:どう動くか、どう演じるかは脚本が教えてくれる、といったようなニュアンスでした

*2:って今気付いたけど全部勘太郎くん絡みってどういうことでしょうか