「メタルマクベス」新感線

えーとこの芝居に関しては、私は大阪で(というか、厚生年金会館大ホールで)見ることができてラッキーだったなと思います。なぜか?音響です。近畿圏で「音響の良いホール」として定評のあるこのホールこそ、「メタルマクベス」に相応しい!とあえて言い切りたくなるほど音響が良い!正直オープニングの音がかかった瞬間に「この芝居もらった!」って感じでしたもん。特に重低音がすばらしいのよねえ〜〜〜。個人的には気持ち音量レベル上げ気味でいっていただきたい!とすら思います。もっと光を!ではなく、もっと音を!音を!爆音を!

作品としてもすごくよかったです。そこそこ芝居を観ていれば普通に見るわな、という程度には「マクベス」を観ていますが(多分4回ぐらいは見ているはず)、ああそうかあ、マクベスってそういう話だったのね・・・と自分の中で初めて得心がいった感じがしました。つーか、マクベス観て初めて泣いた。

1980年代のバンド「メタルマクベス」と200年後のESP王国の話、舞台を二つ用意したアイデアがすごくうまく効いていた。ESP王国の話のほうは、設定が違うだけでかなり本格的な「マクベス」なんだけど(後半は特にそれが顕著)、名前だけは原作どおりのバンドの話のほうで原作には書かれていないことをうまく繋げているよなあと。それを一番感じたのは「睡眠薬でおかしくなったローズ=ランダム夫人」と「疑心暗鬼にとりつかれるランダムスター=マクベス」が会話をするところ。原作では、前半であれだけ一蓮托生だったマクベスマクベス夫人は後半ほとんど会話をしない。少なくとも、精神の均衡を崩したマクベス夫人とマクベスが会話をするシーンはない。この二人のシーンで、2つの世界は完全に繋がる。小さい人間が大きいことをするのよ、前半でマクベス夫人が切ったこの啖呵が、この宮藤官九郎版「マクベス」の全体を貫いていると思う。大きな野望を持ちすぎた小さな二人が肩を寄せ合うシーンは、あれだけあくどいことをした二人とはとても思えない切なさに満ちたいいシーンで、ここの松ちゃんの「ごめんねええ」と、「小さなつづらにしとけばよかった・・・!」の台詞で思わず涙が溢れてしまいました。精一杯に伸ばした手がなんともいえない切なさで。でもこのシーンがあるから、夫人を喪ってしまったあとのマクベス(ランダムスター)のすべてを諦めたような感じがすっと胸にはいってくるんだよなあ。

「消えろ!消えろ!つかの間のともし火」の有名な台詞*1を削ったのは、ランダムスターの絶望をここで「うまく言っちゃう」ことを避けたのかなあという気もしないでもない。好きな台詞なので、聴きたかったなーという気持ちもありますが。

もうひとつ、マクベスといえば・・・な「女の股から生まれた男にマクベスを倒すことはできない」と「バーナムの森がダンシネーンの丘に向かってくるまでは」は、前者はそのまま、後者は「空が裂ける」と「陸の鯨」に言い換えていましたね。陸の鯨はちょっとわかりにくかったかな〜?という気もしますが、空が裂ける、のほうはなかなか良いアイデアだったなーと。

というような、ちゃんと「マクベス」もしくは「あったかもしれないマクベス」な話の筋もちゃんと押さえながら、素晴らしいのは「ありえないマクベス」もてんこ盛りで楽しませてくれるところ!そうだった・・・新感線のおバカさ加減ってこうだった!懐かしさすら感じるバカテイスト満載っぷりに心の中で拍手喝采。そして、踊れる人が出れば踊らせる!歌える人が出れば歌わせる!たとえ芝居の時間が伸びようとも!その心意気や良し。七光り三度笠の素晴らしさには涙を目の幅で流すイキオイでしたよ!

そんな三度笠でありえないマッシュルームカットのままありえないほど素晴らしいダンスを見せてくれた森山未來くん、まさに歌って踊れる役者!そしてあの思いっきりのよさったらどうだろう。森山くん!君ならおポンチもいける!いやーしかしいい役者になった・・・初舞台を観させていただいていることを末代までの誇りとするよ。そして、マクベスといえばマクダフ(この場合グレコ)、そういっても過言ではないおいしい役所を持っていった北村有起哉さんにも拍手。何が良かったって、妻子が殺されたあとのシーンだ!あそこ、マクダフの見せ場中の見せ場ですから、たいていもう慟哭しまくるんですよ皆。それを最後の最後までためるでしょ?「こんなむごいことはできまい」と言って二人に布をかけてやるまで。で、「俺はバカだ!」で爆発。いのうえさんの演出もナイスだし、北村さんの抑えたトーンがまたしびれるんです。ナムプラーってひとりタイ人な粟根さんもよかったなあ。パール王かっこいかったです!そして何が良かったってドラムを叩いている姿を久しぶりに拝めたことだ!眼福なり。上條恒彦さん、歌のうまさとどーんと動かぬ存在感に惚れ惚れ。

主役のおふたり、まさに硬軟自在といった感じのその振り幅の大きさ、さすがです。シェイクスピアといえば日本では蜷川幸雄、という感じですけども、そこで主役をやった内野聖陽さんと、いつオファーがあってもおかしくない松たか子嬢ががっつり新感線な「メタルマクベス」ではじけた演技を見せてくれているのが嬉しいよ!松ちゃんは前述のシーンの素晴らしさが特に印象的だったし、内野さんはどうにもこうにも消せない色気と、あのへなちょこっぷりが個人的にはツボ過ぎた。だって、かっこよかったもん最後。あんな赤いトレーナーなのにさ。死なない、俺は死なない。へヴィメタルは死なない!みたいなさ、そんなかっこよさすら感じたんだもん。

個人的には、ちょっと久々に新感線でヒットがきたなあ、という印象でした。それにしても、新感線の舞台で「目黒鹿鳴館」とか「La.mama」とか聞くとなぜか慌てふためくね!(笑)

*1:確か、歴代マクベスを訳した本で、唯一この部分だけが訳が同じだとどこかで聞いた気が