「トーチソング・トリロジー」

  • PARCO劇場 Y列17番
  • 作 ハーヴェイ・ファイアスティン  上演台本・演出 鈴木勝秀

もともとのブロードウェイでの舞台は当然のごとく未見、映画は見ました。大好きです。

スズカツさんのクレジットが「演出・上演台本」とあるわけだけど基本的にこの形ってのはBWと変わらないんだろうな。映画ではとにかくこの舞台で言うところの3幕にあたるアーノルドと母親のいつ果てるとも知れない「話し合い」が印象的だしかつ素晴らしかったのだが、今日見た舞台では1幕と2幕、とくに映画ではそれほど印象に残っていない2幕が非常に完成されているし、趣向も舞台ならではのもので凄く面白かった。大きなベッド、というのはたぶん戯曲指定なんでしょうね。1幕のモノローグだけで構成し(電話のシーンは対話だけど、役者は顔を合わせない)最後の最後だけ二人が同じ場に立つという演出もなかなか唸らされました。逆に2幕はダイアローグだけで構成されているしね!

3幕はとにかく役者ふたりの直球勝負だし、まったく逃げ場のない演出なのでここをやりきるのはそれはそれは生半可な実力じゃ無理だろうな、とは思います。なにしろ議論、議論、議論だから場面的にも平板になるし、うわっつらで台詞をなぞるだけの役者だったら客は1分で寝ると思う。篠井さんも木内さんも間違いなく実力は十分なんだけど、惜しむらくは私が見た日、かなりぼろぼろだったんですよ、お二人の出来が。篠井さんはちょっと木内さんにつられてしまったという感じもありましたが、この芝居の肝の台詞「だから求めるのは愛と尊敬だけ、その二つがない人に用はないわ」にクライマックスを持ってくることができていなかったように感じました。この日だけだったのか、まだ本調子じゃないのかというのは図りかねるところなんですけども。

とはいえ、ラストにアランの話をするふたりは素晴らしい。親子がほんの一瞬、その気持ちを触れ合わせるこのシーンの静けさは印象的です。親はやっぱり親なんだよなあということを理屈ではなく一瞬で伝える木内さんの感情を抑えた演技がとてもよかった。

役者さんの中で極端にバランスを崩すなあ、というひとはいないのですが、逆に「全体的にいまひとつ仕上がっていないなあ」という感じもありました。なんだ、この言葉あんまり好きじゃないけど、ケミストリーが起こっていないっていうか(笑)。後半に観た方の感想も是非聞いてみたいです。