「ロープ」NODAMAP

*完全ねたばれです。未見の方は是非回避を。台詞バレも含みます。

個人的には、「パンドラ」「オイル」に続く流れの中では一番ピンとこなかった作品だった。この3つの中では「ロープ」がもっともストレートで、構造的にもわかりやすいとは思うけども、そのストレートさを越えるものを提示しきれていないのでは?という印象。

プロレスの団体と八百長勝負を戦争に、というよりもはっきりとベトナム戦争になぞらえて描いています。わかりやすいヒール、顔のわからない敵、アジア人の救済といったようなキーワード、そして代理戦争。八百長勝負のはずが次第に「誰もが八百長だと知っているのにやめられない」「この戦いは仕組まれてるってわかってるのに最前線の俺たちだけがガチンコでやるしかない」戦争に突入していく。

「ミライの村」が天気のいい朝に4時間で滅ぶさまを実況中継するくだりがある。それはどんな絵空事に聞こえても「あったこと」であり、こんな現実は聞きたくないと思っても「なかったこと」にはできないことだ。

だが、演劇でそれを伝えようとしている、この圧倒的事実を客に届かせようとしている、それは伝わってきても、そこに野田さん自身を感じることが出来なかったのだ。野田さんの感じた痛みが、私には伝わってこなかった。タマシイが託されていく(そしてまだタマシイは消えていない)ラストには、もちろん野田さんの切なる願い、というようなものは伝わってくるのだけども。

参考文献としてパンフに上げられているものの一番下に、サイトのアドレスが記載されている。当該サイトにはリンクポリシーが記載されていなかったので、リンクははらないが、「ソンミの虐殺」で検索すると2番目ぐらいにヒットするので、興味のある方は行ってみてください。そこには「実況中継」された文面がほぼそのまま記載されています。*1

野田さんはこの現実を消化しきれないまま観客に渡している気がする。あえてそうしているのかもしれないけれど。

熱狂の中の実況中継を演じるのは宮沢りえちゃん演じるところの「タマシイ」だけれども、野田さんが消化しきれていないのか、りえちゃんがそれを届かせていないだけなのか、そこんところはよくわからない。でも、残念ながら書かれた文面以上の何かを宮沢りえの「タマシイ」から感じる事が出来なかったんだよなあ。座席の関係だとは思いたくないのだけど、1階席のほぼ最後列で見させて頂いたが、最後まで彼女の演技にのまれることがなかった。

宇梶さんは「罪と罰」のときちょっとどうなのか、という印象が強かったので今回警戒してたんだけども、今度の役はハマってた。藤原くんも「オイル」の時よりいい。「女の言葉はわからなかった」というシーンは秀逸。松村武さんも印象に残ったなあ。「罪と罰」の時、役者・野田秀樹を初めて「ちょっとうっとうしい」と思ってしまったのだが、今回は全然そんなことなかった。もっと濃いえり子さんと一緒にいるからかな(笑)

*1:このサイトを見て、ステージの背面にあったものが、ソンミで虐殺された504人の名簿であることを知った。